雑誌《人民中国》企業訪問レポート 浅野亜理紗(2022北京大学)

新時代における新しい絆を紡ぐ人民中国の挑戦

 2023年5月12日、日中友好協会のご協力により中国と日本における情報プラットフォーム中の1つである、「人民中国雑誌社」(以下、人民中国と省略表記)へ訪問する機会をいただいた。ここでまず、感謝の意を表したい。それではこのレポートを通して、私が知り得た人民中国の歴史、そして彼らが抱える困難と挑戦について、最後に業務体験と今回の訪問を通して感じたことを共有する。

人民中国雑誌社があるアジア太平洋広報センター

アジア太平洋広報センターの待合室

1950年、外国人向けに中国に関する情報を提供するため、人民中国が設立され当初は英語版の刊行であった。3年後の1953年に日本版が刊行され、今年で創刊70周年を迎える老舗雑誌社である。長い年月の中、多くの読者に愛されてきた人民中国である。しかし、「老舗」であることに加えネットとデジタル化が急速発展する活字離れの現代において人民中国には大きく分け2つの課題がある。1つ目は読者の高齢化だ。2つ目は活字離れ時代において「雑誌」を情報伝達のツールとする人民中国が読者に与えられる価値の模索である。これらの影響を受け、新時代における20代から40代を中心ターゲットとする若年層の読者の獲得のために人民中国では様々な雑誌内のリニューアルを行っている。雑誌印刷をオールカラーにしたことに加え、雑誌内容もただより豊富で、若者が興味を持ちそうなトピック(新語、小説、俳句等)を新たに増やすだけでなく、より内容に親近感を感じられるように漫画等二次元要素を取り込んだ上でレイアウトを刷新を行なったという点がとても印象的だった。雑誌以外の変化の試みとしては主に2つ紹介があった。1つ目は、ツイッターやYouTube等、新たなメディアを使用して情報発信することである。2つ目は、人民中国が「雑誌」という枠に留まらず、これまでの老舗としての長い雑誌制作の中で培ってきた知識と見識の異なる領域であるアニメ制作に応用したことだ。中国の漫画家、李昀氏が自身の実話を元に描いた漫画を原作とするアニメ作品「血と心」の共同制作者の一員として人民中国が乗り出した。雑誌という一方的な情報提供に留まることなく、「人民中国」という雑誌を日中間の文化交流のプラットフォームとして、新たな絆を紡ぐ窓として定義している点は間違いなくこのデジタル時代に雑誌が生き残るための強みと力となるに違いないと感じた。

職業体験の様子

人民中国の職員方との座談会終了後、職業体験の機会をいただいた。私はツイッター運営に係る投稿・草稿の作成体験をした。より多くの人が関心をもってもらうため、投稿には動画や写真を一緒に投稿するようだが、動画・画像の選定時は、サムネイル状態でも見栄えが良く見えるものを選ぶ等、ツイッター投稿までの過程や注意しておきたい点を教えていただいた。また、体験の合間を縫って座談会には出席されていなかった職員の方と話をした。私はある職員の方へ「今の仕事のどんな所が面白いと思いますか?」と質問した。職員の方は即答することなく、回答に困っている様子であった。その時、近くにいた人民中国で働いている日本人の方が代わりに答えます、とのことで以下のように私の質問に対して考えを述べてくださった。

 「仕事というのは、はじめは自分の好きや興味のあることを基準に選択しその仕事を始めます。けれども、仕事を実際にすると、仕事の内容に対してやりたいものとやりたくないものが出てくる。仕事に『やらない』という選択肢はなく、すべてやらなくてはならない。だから仕事をしていく過程で、仕事が『面白い』とか面白くないとかではなくなります。でもその中に達成感はもちろんあります。」

 長い社会人経験のある方の一意見としてこれからの未来を想像するために働き始める若者たちに対して自分にとっての「仕事の面白さ」が何であるかを考えさせる言葉だろう。働き方や仕事に対するパッションは十人十色だ。だからこそ、人同士の化学反応が起こり、より良いサービスやモノが完成するのだろう。

訪問当日、座談会を行った会議室に入ると、各席に各学生の卓上ネームプレートとともに人民中国の4月号と5月号が置かれていた。人民中国の職員の方の、「ぜひ雑誌を見てどのページが好きか教えてください。」との言葉とともに私を含め、普段は雑誌を見ることがほとんどないと話をしていた他の学生たちも一斉に人民中国の雑誌ページを開いた。本やスマートフォンで記事を読むときと、異なる感覚が体中を巡った。デジタル時代の今、私たちが手にする情報の多くは私たちがそれらに対して一定の興味があったり、過去に関連するものを見ていた履歴からAI等の技術を活用したデータ分析によっておススメされるものなど、デジタル機器の画面上に表示される情報が個人化されている場合が非常に多くなっている。このような時代の中で人民中国の雑誌は、中国関連の情報を知ることはもちろんのこと、開くまではどんな内容があるか分からない、個人化されていない、もしかしたら今までは主体的に注目してこなかった中国に関する事柄に対して目を向けて興味を持ち始める契機となるかもしれない可能性に出会える1種のツールであると感じた。ぜひこのレポートの先にいる方にも、人民中国の雑誌を手に取り、私が伝える「可能性」に触れてみてほしい。

座談会の様子

「人民中国」4月号