「留学に向けて取り組んだ準備と留学に向けた思い」森下雅洋(北京語言大学)

中国への、夢を伸ばし、折られ、思いを馳せ、悩み、希望を持ち、諦め、肯定して、否定して。自分の人生は二次元的に前にも後ろにも進まず、ただ日本と中国という対極にある二国間の、ハーフとしての毒沼に三次元的に下にハマっていった。抜け出せなくなり動けなくなった感覚だ。この葛藤で留学に対する意義や価値がさらに重みを増した。踏み出せばさらに沼の奥底に沈むだろう。そんな2年間だった。

中国という物を直視するのが怖かった2年間だった。留学を志した退職前後にコロナが始まり、父が病に苛まれ、遂にコロナも病も収まらず自分自身も体調を完全に崩した。思いは捨てまいと中国のグルメを中心に気持ちを細くつないだ。太くつなぐと思いが溢れ抑えきれなくなってしまうのが容易に想像できた。

いよいよ父が亡くなる前後に一念発起。中国に行ける行けない以前に自分の身体が壊れ、渡航すらままならなくなってはいけないと思い、運動を全くしなかった自分が急にジムに通うようになった。不思議と継続できた。トレーニングの種類を考え、細かい目標(重量)設定を決め達成し、自分の身体が変わる過程が楽しかった。小さい成功経験が自分の心も体も建て直した。

語学学習はトレーニングとよく似ていると思った。どちらも一朝一夕で成果は出ない。継続可能な細かい実現可能な目標設定をし、自分の力に見合った「中国(語)」を身体に取り込み、二国の重みに耐えられるようにならなければいけない。紆余曲折し、悪戦苦闘したなかでこれに気づけた2年間はかけがえのない経験だ。

八月中旬の一報で遂に沼の「毒」は消えた。沼に住む物として「深き所」を目指し水圧に屈しない力、「濃度」に耐え前に進む力を手に入れられたと思う。その沼に住む覚悟の中で自由に力強く泳ぎ回り、更なる力を蓄えながら留学という登龍門を超え人生をさらに上へ進めたい。そして縦横無尽に中国と日本という領域を奔り回れるようになりたい、成れるように生きていきたいと思った。

(画像は忘れられない中国の景色)