「中国のエンターテイメント作品にハマって感じたこと」有馬万達(南京大学)

2月は旧正月や北京オリンピックがあり、中国としては大きなイベントが続く形となっていました。私も冬季休暇中であったので普段はあまり意識することのない旧正月を祝ってみたり、冬季オリンピックをこれまで以上に集中して観戦していました。以前からこのように意識的に中国を文化的に楽しもうとしていたのですが、これまで中国の映画やドラマといったものは個人的には好みではなかったためあまり触れてきませんでした。しかし、最近は中華圏のSF小説にハマっています。きっかけは『三体』という小説を読んだことです。『三体』は世界全体で約3000万部の累計発行部数の大ヒット小説で、Netflixで映像化も進行しています。私自身読書が好きな方ではあり、三体という小説が面白いと聞いていたのでいつか読んでみようと思っていましたが、第三部まで続くシリーズ物で読むのが大変そうだという理由だけでなんとなく倦厭していました。しかし一度読み始めると見事にハマってしまい、読んでいる期間は常に寝不足状態が続くほどハマってしまいました。

それから『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』や『時のきざはし 現代中華SF傑作選』などの短編集から他の中華圏作家のことも知り、今の中華圏SF全体としての盛り上がりや勢いのようなものを実感しました。しかしそれと同時に、こういった中国のアーティストの作品が海外に進出するにあたっての問題点というものも感じました。『三体』をNetflixで映像化にあたって反対する声があります。理由は作者の劉慈欣氏がアメリカの雑誌の取材で中国政府のウイグルに対する行いを肯定したというものです。それをうけ、アメリカの上院議員五人がNetflix側に『三体』映像化に反対する書簡を送っていたそうです。私はこれには大きく二つの問題があると思っています。一つは作家と作品を切り離して考えるべきか否かという問題です。これは日本でもよく議論されているテーマでもあると思います。二つ目は、西側メディアの価値観で個人の思想を判断して良いのかという問題です。中国政府はよく「内政不干渉」を主張していますが、このように個人の価値観にまで干渉することは過干渉なのではないのかという指摘もあります。また中国人作家である同氏が、実際の問題の是非は別として、母国を強く批判することができるのでしょうか。中国の急成長によって、近年の中国のSF小説の盛り上がりに表れるように、これからも中国から質の高いエンターテイメント作品が生まれてくると思います。そういったときに、中国の作品が、政治体制やアーティストの思想などがジャッジされ、世界に届かないようになるというようなことは個人的にはとても残念です。こういった問題がより周知され、さらに議論が進むようになってほしいと思います。