九千年の歴史と文化を 紹興酒と共に広めたい

2022年5月1日号 /

古越龍山 東京事務所所長

夏 良根さん

1978年 中国浙江省紹興市生まれ
1997年 紹興市魯迅高校の第一期生として卒業
2001年 上海市復旦大学日本語学科卒業
2002年 大阪外国語大学修士課程入学
2004年 京都大学経済学研究科博士課程入学
2005年 共同通信社入社、中国語ニュース配信担当
2017年 共同通信社退職
2018年 紹興市に海外人材として招聘され、有機米作りから紹興酒の醸造に取り組む
2020年 紹興酒最大手古越龍山東京事務所所長に就任

 

芳醇な香りとまろやかな口当たりで、世界三大美酒のひとつに数えられる紹興酒。そのふるさと、中国浙江省紹興市で生まれ育った。

紹興市が人材育成のために新設した魯迅高校の第一期生。上海の復旦大学では日本語を学び、在学中に出会った大阪外国語大学の先生の勧めで日本留学を決めた。その先生は「保証人となり、すべての手続きをしてくださり、私にとって(魯迅の恩師である)藤野先生のような存在」と感謝している。日本の大学院を経て、2005年、共同通信社に入社した。

農と食ビジネスへ転身

「等身大の日本を中国に伝える」。それが入社当時の使命だった。中国人と日本人がお互いに抱く印象は現実とかなり掛け離れており、相互理解を図るため、共同通信が2001年に中国語によるニュース配信を開始。大学時代に上海支局で翻訳の手伝いをしていたご縁で、長年その仕事に携わることになった。

その後は日本で放置竹林対策として竹を粉砕・発酵して土壌改良材に使えることを知り、故郷の竹林活用と有機農業の普及に取り組むことを決めた。ちょうど環境保全や食品安全への国際的な関心も高まっており、「有機農業こそ中国が日本に学ぶべき」と自ら日本で農業を勉強。その技術を用いて紹興で米作りを始め、「持続可能な循環型有機農業」を実践すると高く評価され、「(お米から作られる)故郷の紹興酒を極め、日本に広めよう」と決意した。

紹興市・古越龍山とも、かつて皇帝の結婚式でもふるまわれた高級な紹興酒の栄光を取り戻すこと、また九千年の歴史がある紹興酒の正しい知識を通して文化を広めることで目標が一致。紹興酒ソムリエ資格制度創設を提案すると共感を得て、古越龍山東京事務所設立にいたった。

お酒で友好交流を

新型コロナ下で活動は制限されているが、資格制度準備のため、テキスト完成に向けて目下奮闘している。「前例がないので大変ですが、日本人の体質にも合っている紹興酒の知識を広める仕組みを整え、そこで学んだ方々に伝道師になっていただければ」。また「レベルが高い日本の研究機関と組み、紹興酒の良さを深掘りしたい」と、紹興酒の製法と健康成分などの研究にも強い関心がある。

昨年、関東圏でセミナーや試飲会を開始した。本紙でも昨年5月号から1年間にわたり「紹興酒を旅しよう」を連載。紹興酒の豊かな魅力を堅実な筆致で紹介し、読者を虜にした。

コロナ終息後は中華料理を食べる機会が少ない地方にも出向く予定で「10年後には家庭でも普通に紹興酒を飲んでいただき、スーパーにもたくさん紹興酒を並べてほしい」と語る。日本酒と紹興酒の関係者の交流も検討中だ。願いは「同じ米、麹酒の文化をもつ東アジアの人々がお酒で相互理解を進め、友好を深めること」。共同通信時代は日本のことを中国人に知ってもらおうと取り組んでいたが、日本の情報は中国で広まるようになり、来日する中国人も増えた。片や訪中する日本人は減り、今は「日本人に中国を知ってほしい」。そのためにも「日本各地で紹興酒を広め、交流の場を設けるので、ぜひいらしてください」と呼びかけた。

(本紙広報部)