起業したのは、 日本と中国を結ぶため

2019年9月1日号 /

東洋プロダクト(株)代表取締役 範 東洋彦(はん とよひこ)さん

1994年佐賀県生まれ。佐賀大学1年在学中に「東洋日好」を起業。2016年、水餃子専門店「ちゃおず」をオープン。17年、東洋プロダクト(株)を創業。現在、中国語教室を運営しながら、中国人家庭滞在型の餃子教室を企画中。

 

「食」を通して中国人家庭での交流を企画

2014年、20歳で「東洋日好」を起業した。当時、佐賀大学の1年生。大学の仲間数人と中国語教室を立ち上げた。結果は出なかったが、落ち込んでいる場合ではないと、次に観光業に目をつけた。地元のまちづくりグループに相談したところ、思いがけず佐賀市内でのイベントへの参加を打診された。チャンスではあるが一体何をやろう。考えた末、水餃子の店を出そうと決めた。幼少期から家族みんなで作っていた「範家の味」。評判は上々で、イベント期間中に2000個を売り上げた。
それが自信となり2年後の16年に水餃子専門店「ちゃおず」をオープンし、翌17年には会社組織にした。店舗での販売から製造分野に軸足を移した結果、県内百貨店やスーパーで売られ、ふるさと納税の佐賀県返礼品にも採用された。

おいしいものを食べれば笑顔に

飲食業での成功を夢見ていたわけではない。日本と中国を結びつけるビジネスがしたかったのだ。きっかけは、以前見たテレビ番組。埼玉県川口市の芝園団地で中国人が急増、全住民の半数以上を占めるまでになり、日本人住民との軋轢が生まれているという内容だった。胸が痛んだ。
両親は中国・吉林省の出身。父親は現在も上海でビジネスをしている。自身のルーツである国と生まれ育った国、2つの祖国の人と人が対立しているのが耐えられなかった。対立を絆に変えたい。行き着いたのが「食」だった。
おいしいものを食べれば自然と笑顔になる。そこには国民性も何も関係ない。

佐賀で、東京で、自在に駆け回る

幸い自分には誰にも負けない料理がある。それが水餃子だった。
「ちゃおず」を成功させ、中国伝統食で日本人の心をつかんだが、それだけでは飽き足らなかった。日本人と中国人がもっと直接触れ合う機会を作れないものか。思いついたのが、日本で暮らす中国人の自宅で、日本人に料理を学んでもらい、楽しく交流するサービスだった。中華料理店にはない、普通の家庭料理を一緒に作り、味わうことで、本当の中国人の姿を知ってほしいと考えた。いわば、「日本で味わう短い中国ホームステイ」。
今年7月、その姿が東京の(公社)日中友好協会にあった。15年の協会大学生訪中団に参加した縁で訪ね、思いを熱く語った。

「この事業を東京で試したいと思いました。池袋など中国人が多く暮らす街で、日本人との交流を望み、受け皿になってくれる家庭を探します」
「ちゃおず」を一時休業し、上京してきていた。3カ月前に入籍したばかりの愛妻を佐賀に残して。並々ならぬ決意に、協会も青年委員会を通じて応援することにした。そして、東京を代表するオフィス街・日本橋で、まず自身が講師となって水餃子教室を開くことが決まった。「武者修行ですよ」と笑った、この夏の成果が楽しみである。
(吉田雅英)