中国の未来は明るい。我々に必要なのは勇気

2019年5月1日号 /

撮影:鍾小山

作家、『東方歴史評論』編集長
許 知遠(シウ ジー ユエン)さん

1976年江蘇省生まれ、北京大学卒。ニュース記者を経て大手経済紙『経済観察報』編集長に就く。現在は書店経営者、作家、雑誌『東方歴史評論』編集長ほか、オンライン番組の進行役など多くの肩書きを持つ。著書に散文『那些憂傷的年軽人』、エッセイ『時代的稲草人』など多数。

 

昨年からテレビクルーと共に頻繁に日本を訪れている。テーマは明治維新。これまでに福沢諭吉らが学んだ大阪の適塾、西郷隆盛が潜居した奄美大島、徳川藩士らが拓いた静岡の茶畑などを訪れ、ゆかりの人物や関係者との対話を映像に収めた。一連の旅は対談ドキュメンタリー番組『明治的六個飯局』(全6回、中国語)として年内にもオンライン配信される予定だ。

典型的な知識分子のスタイルを貫く

幕末の武士や文人たちが激動の時代にどう対処したかをみながら、激変する世界で今、個人として何ができるのかを考える番組となる。取材の過程では日中の違いも感じた。例えば徳川家に従い静岡一帯に移住した旧幕臣たちと、彼らが開墾した茶畑だ。「中国では勝ち負けが明白。負けた側は悲惨な運命をたどることが多い。日本ではそのあたりの和解策や妥協案が設けられているようで興味深い」
直裁な文章と歯に衣着せぬ物言いが、生き方を模索する若年層に受け入れられ、同世代にもファンが多い。出身は江蘇省、父親の仕事の関係で7歳から北京で暮らす。1995年に北京大学入学、電子工学分野のマイクロエレクトロニクスを学ぶが、在学中の雑誌への寄稿が人気を博したことで卒業後は記者やコラム執筆者として活躍した。
著名雑誌『経済観察報』の編集長を経て、2006年に本好きの有志と資金を出し合い「単向街書店」(のちに単向空間に改名)を設立。16年から対談番組『十三邀』で進行役を務めてからは、自由闊達な話ぶりが愛され人気が高まったが、外見にはこだわらない典型的な知識分子のスタイルを長年貫いてきただけに「人前に出ることが多くなって苦労してる」と笑う。

作家としても活躍、『梁啓超伝』を執筆中

番組制作の傍ら心血を注ぐのは、清末から民国初期の啓蒙思想家・ジャーナリストで、日本とも関係が深い梁啓超の生涯を追う『梁啓超伝』(全5巻予定)、現在は2巻目を執筆中だ。「今の中国は表面的には活発に見えるが、その奥には人々の無力感や思考を止めてしまったことからくる閉塞感もある。昔と比べたら知識層も社会の辺境に追いやられているよ。この状況を打開する可能性を歴史を遡ることで探ってみたい」
もしも幕末に生きていたら、と考えることがある。「福沢諭吉のようなことをするだろうね。彼が蘭学から英学に転じたような、何か知識体系上での決断をすると思う」。江戸から明治を駆け抜けた風雲児らを鑑みるに「我々には勇気が欠けている」と感じる一方、中国の将来については「長い目でみれば、明るい」と即答。激変する時代の危機感を探究心に変え、理想を失わずに前進するこの壮年の知識人もまた、未来を切り開く志士である。
(フリーランスライター・吉井忍)