メディアで伝えきれない中国や日本のこと、地道に伝えたい

2018年1月1日号 /

タレント
段 文凝(だん ぶんぎょう)さん

天津市出身。スカイコーポレーション所属。2009年に来日し、2011年から現在に至りNHKの語学番組「テレビで中国語」のレギュラー講師を務める。このほか、「HSKのイメージキャラクター」、『マンガで分かるリアル中国人』など日本語書籍の執筆にも多く携わり幅広く活躍。早稲田大学国際部中国語教育コーディネーター。趣味は旅行、スキューバーダイビング、ベリーダンスなど

 

 

天津市で生まれ育ち、天津師範大学でジャーナリズムを専攻。卒業後は天津テレビ局に所属し、アナウンサーとして多くの番組で活躍した。今では流暢な日本語を話すが、この時点で日本語の学習経験はない。だが漢方医である父が一時期名古屋で働いていたこともあり、次第に日本への興味は高まっていった。

「今から思えば小学校から大学まで自分で何かを選び取るチャンスがなく、天津という世界だけで生きていました」
海外にあこがれを抱くのに時間はかからなかった。中国でも多くの人が憧れるアナウンサーという人気の職業をあっさり手放し、一人娘を心配する母親を説得した上で2009年に来日した。

オーディションに一発で合格した

来日後は東京の日本語学校で学びながらアルバイトを掛け持ちする生活を送った。中華料理店、居酒屋に秋葉原の免税店。「教科書の例文より、ナマの日本語を学びたいと思ったんです」。店のオーナーが話す「メシにしよう」や客が使う「お冷ください」。最初は「メシ」も「お冷」も意味が分からず戸惑ったが、語彙を増やし、会話のリズムを学ぶのにバイトの経験は大いに役立った。

そんなある日、友人の勧めでNHKのオーディションに参加。「ちょうどバイトがない日だったから」という気軽さだったが、多くの応募者を退け見事合格。語学番組「テレビで中国語」のレギュラー出演を果たす。2011年から6年間という長期間にわたり明るい笑顔で視聴者を魅了し続けている。

「可愛すぎる中国語講師」のイメージは今も健在だ。多忙な生活の合間を縫って早稲田大学大学院でジャーナリズムに造詣を深め、修士号を取得。今では同大学国際部の中国語教育コーディネーターとして在学生や大学職員、高校生向けの中国語講座講師を務めるほか、中国留学に向けたアドバイスも行う。今年8月には同大の学生100人を引率し、北京大学で行われた日中国交正常化45周年記念行事に参加するという大役もこなした。

中国語の普及にタレント業、演技。好奇心旺盛な性格で、その趣味も多岐にわたる。最近始めたスキューバーダイビンングはマレーシアやインドネシアで楽しみ、自分で運転してドライブに出かけるという行動派だ。

来日して楽しみを知った「お風呂」も欠かせない。「中国ではシャワーが一般的ですけど、湯船に浸かると湯気で肌がツルツルになるし、汗も出てすばらしいと思いました」。一方で父から学んだ健康法も身についている。「『冷たい水で顔を洗い、温かい水で歯を磨き、熱いお湯は足湯に使う』。中国では常識といえるほどの言い回しだけに、日本ではほとんど知られていないことに驚きました」

「地道な交流が一番大事」

トントン拍子に見える経歴だが、日中の架け橋として駆け抜けてきた一人として、一時期中国で盛り上がった反日デモには心を痛めた。「メディアでは伝えきれないこともある。声は小さいかもしれないけれど、自分自身で中国や日本のことをしっかり地道に伝えていく努力が大事だと思う」

今も続く日本での嫌中意識にも無関心ではいられない。「中国人はうるさいとか荒っぽいとか思われがちですが、ちゃんとルールを守って静かに暮らす人もいる。そのことを分かってもらえるよう努力するのも私の務めだと思う」。人目に触れる仕事だからこそ、責任感も人一倍だ。

来日9年目を前に、活動の場はさらに広がりをみせる。『「菜根譚」が教えてくれた一度きりの人生をまっとうするコツ100』、『中国語で読む我的ニッポン再発見!』などの書籍を執筆したほか、今年8月からは毎日新聞のインターネット版でコラムを連載中。日中間のラブストーリーを描いた舞台『3年前の君へ』(2017年)では主役の上海人女性を演じて好評を博した。「2時間ずっと演技を続けるには体力も必要。大変だったけどいい経験でした」

「常に新しいことに挑戦したい」。そんな好奇心を失わないフレッシュな気持ちを保ちつつ、両国の架け橋として貢献できることを考え続けている。
(フリーランスライター・吉井忍)