私の歌を通して、中日両国の人が相互理解できるよう頑張りたい

2017年11月1日号 /

シンガーソングライター
程 璧(チェン・ビー)さん

山東省生まれ。北京大学・大学院で日本語や日本文化を学び、卒業後に来日。デザイン会社で勤務しながら音楽活動も行った。2012年、北京大学の歌手コンクールで作詞作曲賞を受賞。14年、中国のアーティストの海外発信を手がける日本の「PANDA RECORD」(http://panda-record.com)と契約。北京と東京を拠点に活動を行う。これまで中国でアルバム4枚を発表

 

 

「チャイナフェスティバル2017」の野外ステージで、ギターを弾きながら、郷愁を誘うメロディーにのせて透き通った歌声を披露した。無垢な笑顔が印象的な山東省出身のシンガーだが、実は日本語が話せる。聞くと、日本での下積み経験がある異色の経歴をもつアーティストだった。

北京大で日本語文化を学び来日した

「子どもの頃、叔父さんの家に飾ってあった日本の工芸品や人形がかわいいといつも思っていました」

日本語が話せて、仕事で頻繁に日中間を行き来していた叔父の影響もあり、北京大学の日本語学科に進学。同大学院では日本の伝統文化を研究した。「担当教員が日本の裏千家で茶道を学んだ経験があり、強い影響を受けました。茶道や生け花、庭園、枯山水など日本の伝統的な美意識に興味を持ちました。どれも〝日本の宝〟ですね」

当時から歌手を目指していたわけではない。大学の音楽サークルでギターに出会い、夢中に。昔から歌うことは好きだったという。

卒業前に指導教員から「やりたいことを見つけなさい。日本語が専門、と言えるのは大学まで」と言われると、「語学を生かして芸術の仕事がしたい」と来日を決断。東京のデザイン会社に就職し、毎朝7時に起きて満員電車に揺られる生活を経験した。同時に、好きなギターの弾き語りも続け、時にライブハウスで歌った。「優秀な人が多い職場で、ついてくのに苦労しました。でも、日本での経験が、間違いなく今の自分につながっています」

日本の詩人の作品に曲を付け歌った

音楽活動が転機となったのは、日本で中国の詩人・田原氏と出会ったことだ。田原氏は、同じ詩人の谷川俊太郎氏の作品を中国語に翻訳しており、谷川氏や日本のミュージシャンとも知り合い、彼らの支援を受けるように。自身のお気に入りである谷川氏の詩「春の臨終」などに曲を付けて発表したメジャーデビュー・アルバム『詩遇上歌』(2014年)は中国でも話題となった。

また、昨年は日本の童謡詩人・金子みすゞ(1903―30年)の作品12編に曲を書き下ろしアルバムとして発表。「金子さんの詩に対する中国の人の反響は大きく、『日本にはこんなにすばらしい女性詩人がいたのか』と広がり、詩集を読み始めた人もいるそうです」

来春、日本のプロデューサー鈴木惣一朗氏のもとでレコーディングした新アルバムを発売し、日本での活動を本格化させる予定だ。

「曲を作って、ステージで歌うことは、自分自身を伝えやすい表現方法だと感じています。私の歌を通じて、日本と中国の皆さんがお互いに知り合い、理解し合えるよう頑張っていきたいです」(北澤竜英)