過去に拘らず進むのか、捉え直すのか。『繭』では模索する三世代を描きました

2017年8月1日号 /

作家
張 悦然(ちょう えつぜん)さん

1982年山東省済南市生まれ。中国作家協会会員。14歳から文学作品を発表、中国の有名誌『南方人物週刊』で昨年、国内若手リーダーの一人に挙げられた。最近は「忙しくて趣味に割く時間はゼロ!香港式の海鮮寄せ鍋が好きでよく食べています」とのこと。北京在住

 

〝一人っ子〟、〝 消費の担い手〟として注目されてきた中国の「80后」(1980年代生まれ)が30代半ばを迎え、各分野で成熟した味わいを見せる中、「80后」作家として若い女性を中心に人気だ。昨年、長編小説として4作目となる『茧(繭)』を発表。文化大革命という大きなテーマに向き合い、注目を集めた。国の未来を担う世代として何を書き、伝えるかを考えている。

理系から作家へ転身。日本人作家と交流も

父が中国文学の教授だったため、キャンパス内の教員用宿舎で育った。「宿舎のすぐそばに小さな本屋さんがあり、『機械猫(ドラえもん)』の新刊が楽しみでした。私が作家になったのは父の影響だと考える人もいますが、逆なんです」

大学進学の際、父から強く勧められたのは理系。奨学金を得てシンガポール大学でコンピューターについて勉強したが、高校卒業の年に『全国新概念作文コンクール』で一等を受賞すると作家の道を考え始め、留学中も創作活動を続けた。大学卒業時に就職はせず、小説家の道を選んだ。

「『80后』は海外に目を向けて育った世代です。私も中学でテレビドラマの『東京ラブストーリー』を、高校では村上春樹と、多感な時期に日本の文化に触れました」。初めての訪日は2009年。以来、5回ほど訪れている。「好きな街は東京。書店や博物館めぐりができていいですね」

編集長を務める文芸雑誌『鯉』は今年で9年目。「作家の青山七恵さんとは中国でお会いしたこともあり、何回か作品を掲載させてもらっています」。現在教鞭を執る中国人民大学文学院では、学生と宮本輝の『蛍川・泥の河』を読み込んだこともある。

父の話をもとに取材。文革に理解深める

10年ほど前から中国国内の歴史に目を向けている。「例えば文化大革命。私は体験していませんが、当時を過ごした両親の世代は健在です。あの世代は、自分の感情を表現するのが苦手なんです。親子という密接な関係の中でそれは大きな障壁となり、〝一人っ子〟という事情と合わせて私たちの世代の孤独感につながっていると考えています」

著書『繭』は、父から伝え聞いた話と現場取材をもとに執筆した。「父が小さい頃、近所に住む医者が『批闘』の対象となり、頭に釘を打ち込まれて、植物人間になってしまったそうです」。『繭』にはこの犯人を追及しようとする「80后」の女性と、「今を生きるべきだ」と諭すその恋人が登場する。

過去に拘らず、前に進むのをよしとするのか、それとも歴史を自分で捉え直そうと努力するのか。「私たち自身の模索を踏まえ、文革を挟む三世代を描いた作品です。日本の皆さんにもぜひ読んでいただければと思います」
(吉井忍・フリーランスライター)