中秋節の三連休に寧夏回族自治区銀川に行った。夫に「羊肉が美味しいから」と誘われたのだが、調べてみると中国宋代にチベット系タングート族による西夏国の首都・興慶があった場所だった。
西夏といえば井上靖の『敦煌』で科挙の試験を寝過ごしてしまった主人公・趙行徳が導かれるままに向かった国である。開封出発後旅の途中で戦禍に巻き込まれ捕虜として西夏の兵士となり、その後興慶へ来て西夏文字を学ぶために数年を過ごしている。
今回の旅行にあたって再読してみたが驚くほど忘れていた…がそれと共に俄然銀川への興味が湧いたのだった。
1日目は市内を軽く観光。2日目に車を手配し銀川市内から30分ほどの西夏王陵墓へ。
最初に博物館を見学後、バギーで山の麓に散らばる広大な陵墓群を観光する。
上海とは違う湿り気のない乾いた風に吹かれながら着いたのは、この時唯一公開されていた初代皇帝李元昊の墓であった。
かつては立派な装飾がなされていたという陵墓は今は朽ちて黄色い土の山となっている。周囲には山の他はただ砂礫が広がりさながら小さなピラミッドのようだ。
帰ろうと踵を返した時、ふと呼び止められたような気がして立ち止まる。そういえば『敦煌』の文庫本を持っていたのだ。そして導かれるまま陵墓に本をかざして写真に収めた。
李元昊により大国宋を脅かす存在だった西夏。『敦煌』の最後も趙行徳を含めた漢人の抵抗も虚しく敦煌は敗北し西夏の領土となった。しかしその大国もほどなくして内部の後継者争いで弱体化し、チンギスカン率いるモンゴル帝国に滅ぼされる。
本と墓を見ながらその歴史の無常さと、井上靖による創作ではあるが1人の女性が結びつけた因縁の2人を写真に収められた事に胸の高まりを感じながらこの地を後にしたのだった。
余談のようになってしまうが、名物の手抓羊肉を始めどの羊料理も簡単な調理法ながら臭みもなく肉と脂の旨味でとても美味しかった。また食べに行きたい。
(茂木美保子@上海)