空高く 蟹も私も肥ゆる秋

2022年11月1日号 /

秋风起,蟹脚痒

直訳すると「秋風が吹くと蟹の足が痒くなる」だが実際は秋は蟹の美味しい季節で蟹足を思い浮かべると食べるこちらの気持ちがうずくという意味合いだそう。

上海で「蟹」といえば中国語では「大闸蟹」という、いわゆる上海蟹だ。上海市内では一年中上海蟹を提供するレストランもあるが、暑さも落ち着く10月の国慶節明けくらいから年末までがシーズンとなる。

市内は市場やスーパーなどで縛られた上海蟹が整列し、大小様々なカニが入った水槽だけの路面店などもある。面白いのは、春夏はアイスやスイカなどの店に改装し、秋冬になると水槽を出してきて蟹専門店に変身する店も多いことだ。この辺りに商魂たくましさを感じる。

市内レストランでコース又はアラカルトを食べる、あるいは買って自宅で蒸すなど色々と方法はあるが、私の年に一度の楽しみが本場陽澄湖まで行って現地で食べることである。

電車やバスはないので車を手配し、陽澄湖にほど近い巴城という街に行くとそこは上海蟹の店だらけ。上海蟹レストランや、近郊に卸す業者の店など、どこを見ても上海蟹関連の店が目に飛び込んでくる。

各レストランには上海蟹の水槽があり、オスメス、そして重さによって分かれる。値段も変わる。それを自分で選んで蒸してもらうのである。

蒸しあがる間に農家菜と呼ばれる地元料理をつまんでいると蒸し立ての蟹がドーン!と山盛りで提供される。熱々のうちに縛られている紐をほどき、殻を外してオスならミソ、メスなら卵にかぶりつき、身体や足の身をほぐしながら食べる。湖周辺までくると市内よりも値段に対して大きい物が多く食べがいもある。ここまできた甲斐があるというものだ。淡水の蟹にも関わらず毎回ほのかに塩気を感じるのが面白い。

今これを書いている段階ではまだ蟹を食べる機会に恵まれていない。秋風とともに上海の街中に少しずつ増える蟹の気配に、私の心も痒痒(ヤンヤン)してくるのであった。

(茂木美保子@上海)