煉気の士・清虚道德真君

2025年5月1日号 /

封神演義

清虚道徳真君(せいきょどうとくしんくん)は闡教十二大仙の一人で、青峰山紫陽洞(せいほうざん しようどう)の洞主である。それよりも黄天化(こうてんか)の師と言うほうがピンとくるかもしれない。

物語での清虚道徳真君の登場は、商から西岐に亡命する黄飛虎一族が潼関を抜ける際、関を守備する将軍・陳桐(ちんとう)に阻まれ、黄飛虎に危機が迫っている時であった。碧雲床(へきうんしょう)で元神の気を巡らせていた道徳真君は、心に過ぎるものを感じ、占ってみると黄飛虎の危機を知り、黄天化を呼び寄せ助けに向かわせる。この時、宝器・莫耶(ばくや)の宝剣と仙薬を授けている。

実はこれより前に道徳真君は登場している。物語の序盤で商の上大夫・楊仁(ようじん)を助け弟子とした時である。妲己が紂王に鹿台(ろくだい)の建造を提案すると、当時は商の下大夫であった姜子牙に建造の命が下った。しかし姜子牙は命令を拒み自殺に見せかけ商から脱出する。この一連の顛末を聞いた楊仁は紂王に建造中止を求め諫言する。しかし紂王は諫言を聞き怒り、楊仁の両目を抉り抜くよう命じる。目をとられ床に倒れ伏していた所に一陣の風が起こり、楊仁はどこかへ連れ去れていた。これは楊仁の忠心の気にきづいた道徳真君が救い出したのであった。

截教との戦いでは他の十二大仙と共に周軍に協力し、十天君との戦いや誅仙陣・万仙陣の戦いに加わっている。十絶陣では、宝器・五火七禽扇(ごかしちきんせん)によって王天君の紅水陣を破っている。この五火七禽扇は、空中火・石中火・木中火・三昧火(ざんまいか)・人間火の五火を発し、鳳凰・青鸞(せいらん)・大鵬・孔雀・白鶴・鴻鵠(こうこく)・梟(ふくろう)の七禽の羽でできている。強さだけでなく、美しさにも秀でた宝器である。一方で、三霄娘娘の黄河陣の戦いでは、雲霄(うんしょう)の宝器・混元金斗(こんげんきんと)によって、闡教の多くの仙道と共に捕らえられている。

道徳真君が扱う宝器は、五火七禽扇だけでなく、黄天化に授けた攢心釘、莫耶の宝剣、花籠、さらに騎獣の玉麒麟、楊任には飛雷鎗(ひでんそう)、五火神焔扇(ごかしんえんせん)、騎獣の雲霞獣(うんかじゅう)を授けている。これら数多くの宝器を扱える道徳真君は、物語において宝器の扱いや戦いに優れた仙道の一人であろう。

文 ◎ 二ノ宮 聡
1982年生まれ。中国文学研究者。中国の民間信仰研究。関西大学大学院文学研究科中国文学専修博士課程後期課程修了。博士(文学)。北陸大学講師。

絵 ◎ 洪 昭侯
1967年、中国北京生まれ。東京学芸大学教育学部絵画課程卒業。(株)中文産業のデザイナーを経て、2014年、東方文化国際合同会社設立。