日本と中国NEXT 大井芳季さん

2022年10月1日号 /

大井 芳季さん

社会人3年目の2014年、北京大学に普通進修生として留学。対外漢語学院と光華管理学院で1学期ずつ過ごす。帰国後、転職を経て2017年より上海勤務。経理の業務をしつつ、社内第二公用語の上海語を特訓中。趣味は旅行。訪れた中国の都市は50を超える。新型コロナ流行後は旅行に行けない中、上海で各地の中華B級グルメの探求に勤しむ。

 

皆さんはどのように中国語を勉強しているだろうか。大井さんは留学前、近所の中国スーパーの店長と話し中国語の会話を練習したという。店長とは今も仲がいいそう。この零れ話からも見て取れるように、インタビューを通し彼のあらゆることをチャンスに変えるバイタリティや、“人”とのつながりを大切にする豊かな人間性が伝わった。社会人での留学、そして転職という大きな決断へ、彼を突き動かしたものに迫りたい。


■当時のキャリアと全く関係のない中国への留学はとても大きな決断だったと思います。北京大学への留学に至った経緯を教えてください。

大学4年生の時に日中学生交流のプログラムに参加し、中国人の学生に対し「面白い、もっと知りたい」と思いました。大学卒業後も当時の中国人学生とのつながりがあって中国で暮らしてみたいという気持ちが膨らみ、社会人になってから勉強を始めた中国語を伸ばしたいという気持ちもあり、思い立って留学を決めました。若かったので、長いスパンでプラスになるだろうと楽観的に考えていたと思います。

 

■留学の前半は語学を、後半は経営学を学ばれていたと伺いました。特に後半は、正規学生の中での学習で、たくさんの苦労があったかと思います。留学中に印象に残っている経験を具体的に教えてください。

勤勉な北京大学の学生についていくのは大変で、語学力の不足を補うために、がむしゃらに努力しました。例えば中国経済の授業で、土地改革についてグループワークで研究発表を行ったのですが、お客様扱いではなく現地の学生と互角に戦いたいという気持ちから、関連論文を多めに読み、要約レポートを一番早く提出するなど努力しました。日々の努力の成果が実り、現地の学生の輪に入りグループ研究を終えることができました。別のマーケティングの授業では、中国ECサイトのマーケティング分析についてのレポートが優秀答案に選ばれ、その後の自信になりました。

 

■現在は上海で経理のお仕事をされていると伺いました。留学中の経験は現在の仕事に生かされていますか。現在の仕事についても広く教えてください。

言語はもちろんですが、留学時に中国学生とグループ研究をした経験が仕事にも活きていると感じます。長く勤務している中国人同僚達の中に、外から来た自分が入っていくのは大変です。しかし留学時の経験を思い出し、よくコミュニケーションを取り、一緒に努力しているという姿を見せることで、早く組織に馴染めたと感じます。現在の主な仕事は、中国の制度に基づいて財務報告をまとめ、更にそれを日本の制度に基づいて組み替えて日本に提出しています。特に中国の会計制度は分かりづらく、中国の同僚に聞いたり、資料を読むことが必要ですが、留学時に教授に質問したり、課題図書を読んだ経験が活きていると思います。

 

■最後に日中両国の未来を見据え、中国に関心を持つ若い世代、特に社会人の方々にメッセージをお願いします。

現地でしか分からないことがたくさんあるので、留学する方がもっと増えればいいと思っています。日本でも多くの中国人と知り合えますが、知日派の方が多く、中国全体から見れば一部だと思います。中国の様々な姿を実際に知ることで、日本人だから、中国人だからといったステレオタイプに基づかない、自分なりの視点を得ることができると思います。


取材後記

新しいことへの挑戦が楽しく、全く負担に感じないという言葉が印象的だった。失敗を恐れず挑戦する彼を突き動かしているものは、好奇心だと思う。一方、継続的な努力と“人”とのつながりを大事にするあたたかな人間性ゆえに成功への道筋が開かれ、努力に裏付けられた成功と自信が次の挑戦につながっているのだろう。最短距離での成功への同調が求められる社会で、私は好奇心の赴くままに挑戦することに挑みたい。

(北京大学 彭 知音)