日本と中国NEXT 川内佑毅さん

2022年9月1日号 /

川内 佑毅さん

1983年東京都出身。教育学修士(東京学芸大学)、書道学博士(大東文化大学)。2006年〜2007年、普通進修生として浙江大学に留学。専門は書道・篆刻。現在、東洋大学文学部専任講師、大東文化大学人文科学研究所兼任研究員、読売書法会幹事、謙慎書道会理事、全日本篆刻連盟理事、文京区書道連盟理事ほか。 著書に『思い通りに印を刻る 篆刻上達のコツ』『深い理解が制作につながる 篆刻鑑賞のコツ』(いずれもメイツ出版)がある。

 

「自分は中国の良いところをたくさん知っている。」

我々が先陣を切って若者たちに中国の良いところを伝えていきたい。日中交流の促進に貢献したい。と話してくださった川内さん。

幼い頃から習っていた書道の根幹を学びに中国渡航を叶え、浙江大学に留学し、現在は国内大学で教鞭を執る。今回は留学を経て考えた日中両国の未来を伺った。


■中国に渡航を決めた理由は?

書道の名跡を自分の目で見てみたいと思ったからです。実は留学以前に1か月間渡航したことがあるんですよ。大学1回生の夏のことです。そのとき中国語スキルは全くでしたが、各地を巡って数多くの名跡に触れました。ただ、やはり語学力がないと異文化理解に齟齬が出てくると感じて。現地の人と同じように暮らして初めて理解力を高められるのではと思い、きちんと勉強して留学することに至りました。

 

■浙江大学での留学生活はいかがでしたか?

必要に迫られると語学力は伸びるのだと実感しました。まず生活するために必要最低限の設備を自分で整えなければいけないので、電話会社に直接電話して、寮のインターネットの開通工事を手配することから始めましたよ。授業にしても、良くて6割しか聞き取れない時期もありましたが、録音して授業後に何度も聞き返し、友達にも教わったりして、徐々に学びを深めていきました。

 

■浙江大学の授業内で印象深い出来事は?

実技授業で日本の書道道具が注目を集めたことですね。各国伝統のアイデンティティが道具に垣間見えるからですね。そもそも篆刻とは篆書を印文に彫ることを指します。特に朱墨の用い方は日本独特で、質の良い美しい朱色と金色のコーティングが魅力的。印稿を作るとき、日本人は朱と黒を用いて緻密に推敲するので、朱色が要なんですね。対し中国は墨で一発書きなのが特徴です。普通の書は直しがなく一発書きなのだから篆刻も同じ要領だというのが彼らの文化です。彼らと文化を知るには有意義な気づきの機会でした。

 

■留学の経験が生かされていると思う瞬間は?

教鞭を執るときに、自分で見聞きした経験に基づく情報を付随して学生に教えられるときですね。この文物はどんな状態で保管されているかとか、質感がどうとか。現地で見るということは、どんな場所に現存しているか、周りの雰囲気も含めて知ることができますから作品そのものの特徴だけでなく歴史の蓄積を体感できます。そういうことを話せるとたちまちそれらが立体になるんですよね。学生にとって文物が机上のものではなくカタチを持つものになるよう話せるという点で生かされています。

 

■日中の若者に思うことは?

今日の主要な交流は、業界で責任ある方々が中心となって進めている印象です。実績を積んで地位を得てできる交流もあるかもしれませんが、若者の皆さんは臆せずアグレッシブにそれぞれ自由な交流を楽しむのが良いと思います。情報化が進んで学びの土壌は肥えています。せっかく漢字という共通のツールを使用する仲間なので、知見の範疇を広げましょう。コツは自分の考えをしっかり相手に伝える意思を持つことですよ。

 

■最後に今後の活動について

総括すると今日の方向性をより深めて、未来に繋げていきたいです。具体的には、中国学術誌へ論文投稿をして研究を深めていくことと、篆刻の殿堂である西泠印社への所属を目指すという2点に尽力します。継承と革新を軸に据え、歴史の1ページを作る人材になりたいですね。日本にも中国にも、はるか昔から受け継がれた魅力がたくさんありますから、それらのバトンを渡せるような礎を築いていきたいと思います。

 


取材後記

コロナを乗り越えた若者が良い交流をしていけるように、という姿勢に感銘を受けた。

私自身10年書道を習った経験があるが、これほどまで素敵な伝統文化と向き合いきれていなかったのだと猛省したとともに、書道の可能性を思い出すことができた。2022年まで褪せることなく受け継がれる伝統には、それなりの理由と先人の努力が隠れているのだと気づき、それをインタビューで体現してくださった川内さんに心からの敬意を示す。99年生まれ、西暦の下二桁とともに成長する若者として、箍を締めなおして将来を見据えたい。

(武蔵野大学 菊地里帆子)