中国以上に面白い国はない ―ドキュメンタリー監督 竹内亮氏に聞く―

2023年7月1日号 /

(たけうち・りょう)1978年生まれ、千葉県出身。中国・南京市在住。ドキュメンタリー監督・番組プロデューサーとして多くの映像制作を手がける。2013年に中国人の妻と中国に移住し、翌年南京市で映像制作会社「和之夢文化伝播有限公司」を設立。2021年、江蘇省人民対外友好協会から“江蘇省人民友好使者”杯受賞。著書に『架僑 中国を第二の故郷にした日本人』(角川書店)。

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中国全土でナンバーワンのインフルエンサー(Weibo旅行関連)であり、リアルな中国の人々の暮らしなどを撮影し続けているドキュメンタリー監督・竹内亮氏。5月19日から25日まで、中国の長江を辿るドキュメンタリー映画『再会長江』が東京の角川シネマ有楽町で公開され、幅広い世代に好評を博した。竹内氏に、中国進出や制作の源泉について話を聞いた。(5月22日/聞き手・伊藤洋平 理事兼全国青年委員会委員長)


日本の今を中国人に紹介したい

――中国に行こうと思ったきっかけは?

一番は、長江です。2010〜2011年に「長江 天と地の大紀行」(NHK)を1年かけて作ったのがきっかけで、中国に住みたいと思いました。

二つめは、中国人は日本のことを知らないと感じたからです。中国で日本人だと言うと、決まって「高倉健さん(1931~2014年、日本の俳優・歌手)は元気ですか」と聞かれました。未だに日本のイメージは高倉健さんなのかと思い、日本の今を中国の人に紹介したいと思うようになりました。

三つめは、当時31〜32歳で、先が見える年齢だったことです。大きな番組を手がける一方で、それ以上何ができるかなと考え、中国に関する番組を作りながら、中国に行きたいと妻を説得しました。

 

――ちょうど両国間で尖閣諸島の問題があった時期に中国に関する番組を制作して、反応はいかがでしたか。

当時は日本の全メディアが中国バッシングをしていましたが、私の場合は反日デモに参加しなかった若者たちを取材しました。

それができたのも、中国人全員がデモをしているはずがないと分かってくれたプロデューサーが、日本のテレビ局にいたからです。その番組はゴールデンタイムに放送されました。

 

TVからネット動画へ

――中国進出後、最初に着手したのは?

中国のテレビ局と一緒に日本を紹介する企画を提案し、全部断られました。尖閣問題が尾を引きずっていたのもあると思います。

出口がない状態に陥っていたときにネット動画を知り、このままでは中国に来た意味がない、ネット動画を作ろうと決めました。

 

――すぐにバズった(バズる=注目を浴びること)のでしょうか。

最初から調子は良かったです。ネット動画を作っている動画のプロはまだ少なく、中国の4つの大きな動画ポータルサイトがトップページで紹介してくれました。ただ、再生回数では成功してもすぐに収入に繋がらず、苦労しました。

2018、2019年は日本の芸能人の中国進出ラッシュで、EXILEや乃木坂46の齋藤飛鳥さんなどと一緒に仕事をしたところ、日本が好きな中国の人には顔が売れ始めました。

その後、新型コロナウイルス感染症が流行し、すべてのプロジェクトがつぶれました。そこでコロナ関連の動画でも撮るかと思い、公開したら超バズって、中国全土に知られるようになりました。

 

――コロナが流行する中で、仕事上でやりにくさはなかったのですか。

私の作品は、外に出て撮影しないと観てもらえません。だからこそ、価値のある動画を撮影しようと動きました。

『再会長江』の例で言うと、ロゴ湖(四川省・雲南省)というきれいな湖の映像は、コロナの時期だったので撮れました。普段は観光客がたくさんいるところ。撮影時はコロナの影響で観光客がいなかったので、私が一人でボートに乗って撮影しました。

中国の怖くない一面を伝える

――『再会長江』を日本で上映しようと思ったのはなぜですか。

日本人の中国への誤解が高まっていると思います。しかし、今だからこそ日本人に、中国の怖くない一面、日本のメディアでは描かれない一面を伝えたいと思ったからです。もし日本での上映がうまくいったら、その成果を持って中国で上映したいとも思っています。

日本人向けと中国人向けでは編集が異なり、日本人向けの『再会長江』は上海から源流最初の一滴を目指して6300キロを辿ります。日本人は長江の源流と言われても想像がつきにくいので、上海、南京、武漢など知られている都市から入っています。

中国版では、最初の1滴から始まる逆方向の話にしています。中国人は上海の風景や文化は見飽きていて、面白くないからです。

 

――日本での映画の宣伝で意識した点は?

いきなり中国に興味がない人を呼ぶのは難しいので、在日華僑と、中国に関心がある日本人に絞って宣伝しました。その人たちが映画を観て、シェアしたいと思い、中国に興味がない人を誘う、という方法しかないと思います。だから、中国に興味が全然ない人が観ても面白い内容にしようと思いました。

また、友だちと一緒に宣伝しようと、『再会長江』上映にあたっては16人のトークゲストにお越しいただきました。宣伝は、私一人の力では全く無理です。

 

――今後、『再会長江』が日本全国で公開されることになったら、日本と中国はどう変わると思いますか?

映画にそれほどの影響力があるとは思いません。ただ、とにかく作品を観てもらいたいです。ただし、それを観た人がどう受け取るかは、観た人次第だと思っています。

 

常に予想を裏切ってくれる

――中国でドキュメンタリーを制作したいと思う源泉はなんでしょうか。

去年世界1周したように、中国だけに対象を特化しているわけではありません。しかし、世界を見てきて、中国以上に面白い国はないと思いました。予想外のことが起きるからだと思います。常に予想を裏切ってくれるのは、ドキュメンタリー監督として大きな喜びです。予定通り、脚本通りでは面白くない。中国ほど予定調和にならない国はないと思います。

 

――予定調和にならないのは、日本人からすると合わないということにもなりがちですが。

急にキャンセルされることが、日本人は理解できないですよね。けれども、私はもう振り回す側になっています。『再会長江』を上映している映画館の人も大変だと思います(笑)

でも、お互いが振り回し合えばお互い様で、問題がなくなります。またその方が、効率が良いですね。臨機応変さを求められるようにもなりました。

 

――最後に、読者にメッセージをお願いします。

3年間、新型コロナの影響で中国に行けていない人に、中国の現状を伝えたいと思っていました。

『再会長江』では、みなさんが好きそうな(『三国志』で有名な)赤壁など、中国好きの日本人が観たらたまらないところも、たくさん撮影しました。『再会長江』が全国公開された際には、ロードムービーとして旅行に行くような気分で、私と一緒に旅をする感じを味わっていただきたいです。