熱烈歓迎 ようこそ北海道へ! 「おもてなし」を支えるマンパワー

2018年5月1日号 /

近年、訪日外国人の増加がめざましい。その中心を担う中国人観光客にとって、豊かな自然と絶品グルメを満喫できる北海道は憧れの場所。平成28年度の外国人来道者数は約230万人で過去最高を記録したが、中国人が約54万6600人を占め最も多かった。旅の印象は「人」が左右する。「おもてなし」を支える人たちに話を聞いた。(内海達志)

同胞のお手伝いにやりがい

左から留学生担当の小川昌宏先生、劉孝賢さん、李家豪さん、徐濤さん

舞台は北海道を代表する温泉地の登別市。今年の春節期間中、JR登別駅で日本工学院北海道専門学校の中国人留学生らが、ホームと改札の間で荷物の運搬を手伝うポーターサービスに従事し、その働きぶりが地元紙「室蘭民報」で紹介されるなど注目を集めた。

留学生の場合は、得意の語学を生かして通訳でも活躍し、市は「バスの乗り降りや料金のことなどを丁寧に説明してもらい、訪日客に喜ばれた」と感謝する。
「おもてなし」に参加した3人――江蘇省泰州出身の徐濤さん(27)、マカオ出身の李家豪さん(27)、浙江省寧波出身の劉孝賢さん(23)に話を聞いた。

全員が北海道へ来て1年目。初めての冬を体験し、「とにかく寒かったです」と口を揃える。徐さんは「冬靴を用意しなかったので、何度も転びました」という冬の北海道ならではの〝洗礼〟も。しかし、北海道や登別の素晴らしさは、想像以上だったようだ。
「学校の活動で宿泊した『まほろば』(人気温泉ホテル)がとてもよかった」(劉さん)
「趣味は写真。北海道は景色が美しいので、たくさん撮影しました」(李さん)

秘境駅として知られる「小幌駅」と札幌夜景の作品では、コンテストで受賞した。そんな魅力的な北海道を多くの人に楽しんでもらいたい――3人の思いを体現できたのが、ポーターサービスのボランティアだった。

ポーターサービスで活躍する留学生(写真提供:室蘭民報社)

「自分の国の人たちのお手伝いができて嬉しかったです。日本語を勉強した甲斐がありました」(徐さん)
「香港・マカオや広東からの旅行者も多く、久しぶりに広東語を話せて懐かしかったです。通訳の勉強にもなりました」(李さん)
「他人のお役に立てて嬉しかったです。なかにはお礼の言葉をかけてくれなかった人もいましたが(笑)」(劉さん)

劉さんは地元紙の写真を指差し、「ここに写っているのは僕ですよ」と、ちょっと誇らしげに笑顔をみせた。
3人はいずれもホテルでの勤務を希望しており、これからも北海道のインバウンドを支えていく。

「地元のホテルでアルバイトを始めたばかりの頃は、たくさんの中国人観光客が来ることが不思議でした。留学前は登別がこれほど有名な温泉だと知らなかったので。日本語を生かして頑張りたいです」(徐さん)
「日本人と話す機会が多いおかげで、会話力の上達が実感できて嬉しいです。就活は厳しいと思いますが、函館のホテルで働いてみたいですね」(李さん)

北海道もサービス業は深刻な人手不足。彼らが貴重な即戦力となるのは間違いない。

今後の課題はリピーター獲得

札幌観光を楽しむ中国人観光客と矢野さん(右1)

中国をはじめ、アジア各地からの観光客が増え続けている北海道で、インバウンド対応コンサルティング、翻訳・通訳などを手掛ける北海道チャイナワークに勤務する矢野友宏さんに、これからの対応方法について話をうかがった。

矢野さんは鉄道趣味の世界でも活躍している人物だが、中国に興味を持ったきっかけは、大学時代に中国でまだ健在だったSLだという。「遼寧省大連市に1年間留学し、SLの調査と撮影をしながら、あちこち回りました。当時の中国は至るところが超アナログで、『数十年前の日本はこうだった』と伝え聞いたものが目の前にあり、まるで龍宮城に来たかような世界でした。田舎の駅で駅員さんと一緒に春節の宴に参加して酔っ払ったり、汽車旅で一緒になった人の家に泊めてもらったり、羊飼いと丘の上でSLが来るのを待ったり、『鉄道と人』が暮らしに密着している世界を堪能しました」と振り返る。

中華圏で北海道が高い人気を集めている背景については、「今の中国は、健康と環境が関心の中心。自然の中で過ごす非日常体験を求めています。また、割安な航空路線網の拡大とビザの緩和によって、個人で手軽に来ることができ、距離的に近い北海道の魅力がますます注目されていることも要因では」と分析する。

今後、特に重視すべき視点について尋ねると「まずは、リピーターを増やすことだと思います。何度も来てくれるお客さんは、より深く日本を理解し、周囲への影響力もあり、相互理解の橋渡しをしてくれる存在です。そのためには、中国人旅行者を『団体』として捉えるのではなく、『個人旅行者の集まり』と認識するところから始まります。数値目標が先行すると、さまざまなニーズの違いに目が向かず、どうしても画一的なサービスになりがちです。リピーターを増やすためには『来てからの新たな興味』を誘発させて、『違う時期に来てみたい』『もっとこれを深く知りたい』と思わせる工夫が必要です。そして、それらを拡散させるためにリピーターを囲い込む取り組みが大切です。この継続こそ『おもてなし』の気持ちがなくては、成り立たないものだと思います」と提言してくれた。

最近はマニアックな目的で北海道を訪れる人も増えているという。その一例が「鉄道迷」(鉄道ファン)だ。「鉄道写真を撮影するために鉄道沿線に赴いて、中国語を話す同好者と会ったことは一度や二度ではありません。レンタカーに乗ってトロッコ鉄道を訪問する人も増えてきました。真冬に強風が吹きすさぶ海岸沿いに中国からのお客さんを鉄道撮影にお連れしたところ、大変喜ばれました。鉄道以外にも、野鳥撮影や専門的なサイクリングをする愛好家も急増しています。こうした旅行を経験する人は、ほとんどリピーターになってくれるのです」

道内各地で「外国人おもてなしセミナー」が頻繁に開かれている。矢野さんは、受け入れ対応時の語学や習慣、秘訣をレクチャーするなど、業務は多岐にわたり多忙を極めるが、「中国留学時代の異文化体験が今の自分の一部です。今度は自分がお返しをする番です」と、リピーターを増やすための「おもてなし」にさらなる磨きをかける。