「帰省」の話
日本では正月が終わり、大学などでも期末試験の時期である。中国では正月もさることながら、旧正月の「春節」を控えているので、新年を迎える気分はまだ酣である。
お正月には一家団欒をする。これは洋の東西を問わず、一般の家庭で行われている。日本やヨーロッパの国々はふつう元旦に一家団欒をするが、中国では「春節」のときになってはじめて一家団欒が実現する。大みそかの夜、家族全員そろって一緒に食べる「年夜飯」が一家団欒のシンボルである。この「年夜飯」を食べるために、家族の構成員たちは全国各地もしくは世界各地から帰省していくのである。中国ではこの時期になると、新幹線(高鉄)も飛行機も非常に混雑してくるし、高速バスも超満員の状態になる。数十億人の大移動というほどである。
嫁いだ女性の帰省
一般の人は必ず大みそかの夜までに実家に帰るが、嫁いだ女性の場合はどうだろうか。
中国では、昔は〝嫁出去的女儿,泼出去的水〟「嫁いだ娘は、撒いた水」と言われていた。つまり、よそへ嫁いだ娘は覆水の如く、よほど特別な事情がないかぎり実家には帰らないということであった。しかし、それはあまりにも無慈悲なので、のちに実家への帰省が許され、現代では春節に実家に帰るということはもはや慣例となっている。
旧暦の1月1日(春節)は年始回りの日で、まず同姓の親族を挨拶して回る。1日が過ぎたら、今度は嫁いだ女性が実家へ帰省する番になる。田舎ではこの日を「収拾節」という。「収拾」は基本的に「片付ける」という意味だが、1年間のご無沙汰にけりをつけるという意味だろう。
家にもよるが、自分の家では2日は母の実家へ行っていた。その日、母の実家には母の兄弟たちが集まってくるので、その大団欒に母も笑顔いっぱいで、集まった人たちも楽しそうだった。そして、3日は自宅の「収拾節」となる。父には女兄弟がいなかったので、小さいときは、祖父の妹のための「収拾節」であった。姉が嫁いだ後、うちでも本格的な「収拾節」を行うようになった。
旧暦の1月は、1日が「春節」、15日が「元宵節」で、この2日は「節」が付いた祝日であるが、ほかには「収拾節」のみ「節」が付いた日で、人々がこの日をいかに大切にしているかがわかる。
いつもは夫の家にいて、ストレスもたまるだろうが、年に1回の実家でのくつろぎは女性にとって何よりの癒しとなるだろう。ただし、現代の女性には、この言い方は当てはまらないかもしれない(笑)。
※ちなみに、中国語では結婚した女性にとって夫の家は「婆家」と言い、生家は「娘家」という。そして「帰省」は普通の意味に使われるが、女性の帰省は特に「帰寧」と言ったりする。
(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)