「山査子」って、何?

2022年11月1日号 /

“糖葫芦”の話から

冬が近づいてきた。今頃になれば、中国の北方では“糖葫芦”の出番になる。“糖葫芦”は“冰糖葫芦”とも言い、砂糖を溶かした飴の液体を山査子という果物のまわりに掛けてできる、現代風に言えば、フルーツのスイーツである。

山査子は中国原産の植物で、現代中国語では普通きへんのついた「楂」という漢字を使い、「山楂」と書くが、中国人には、昔から親しまれている食べ物である。田舎の山にはたくさんの木があり、秋になると真っ赤な実が枝にたわわになり、食いしん坊というより、食べ物の無い時代だから、こっそりと山に忍び寄りその実を取ったりする。生の物は非常に酸っぱくて、今でも思うと口に唾がたまるぐらいである。そして、そのうちに“糖葫芦”売りが村々にやって来る。普通は天秤棒の両側に麦わらを束ねた束がいくつもあり、そのまわりには串になっている“糖葫芦”が所せましと刺さっている。大きいものは1角(十銭)、小さいものは5銭ぐらいで、子供達は貯まった小遣いや臨時に親にもらったお駄賃を持って集まってくる。“糖葫芦”の外側の飴の塊は氷のようにパリパリとしていて、中の山査子はシャキシャキしてみずみずしく、甘酸っぱい味で、子供達を虜にする。

山査子は昔から生薬にも使われ、胃腸にはとてもやさしい。またいろいろな形で食べ物として利用される。山査子をスライスして乾燥したドライフルーツ、つぶした実に寒天などを混ぜてできる棒状の「山楂条」、ビスケット風の「山楂餅」、羊羹のような「山楂糕」などなど。山査子製品は子供だけでなく、今では女性にも大人気のようである。

日本における山査子

日本ではどちらかと言えば山査子に疎いようで、大学で学生に尋ねても、ほとんどは知らないという。最初に日本に来た時、一時泊まっていた飯田橋駅近くの「後楽寮」(今の日中友好会館の前身)の近くにある小石川植物園で確認したことはあるが、そのほかはほとんど確認できなかった。

しかし、たまに担任の日本語の先生から頂いた日本の懐メロのカセットテープでは、北原白秋の「この道」という歌の中に確認できた。歌の第4連に「あの雲もいつか見た雲、ああ、さうだよ、山査子の枝も垂れてる」とあった。もちろん、これは北海道の話なので、本州以南の人々には遠い存在なのかもしれない。

それでも、今東京の池袋駅の北口を出れば、街に立ち並ぶ中国食品店の入り口に、レプリカの“糖葫芦”が飾ってある店もある。その内容は山査子に限らず、苺、山芋、パイナップルなど、色々なものに広がっている。楽しみである。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)