「国交」は中国語で何というか?

2022年10月1日号 /

中日の「国」と「邦」

50年前の1972年9月29日、周恩来総理、田中角栄首相が中日共同声明に署名し、 中日の国交が正常化した。

さて、日本語では「国交」というが、同じく漢字使用の中国ではなんと表現されているのだろうか。結論を先にいえば“邦交”であって、日本語の「国」に対して“邦”という漢字を使用し、「国交正常化」は中国語では“邦交正常化”という。同じ意味の「くに」でも両国では異なる漢字で表わされる。両言語における「国」と「邦」の使い方を見てみたい。

まず「国」については、両言語でともによく用いられ、使い方も似ている。「国家」の意味における「国民」「外国」や、「本国・自国」の意を表す「国学」「国産」など、同じような使い方の語が多い。中国語では、国を代表するスポーツ選手のことを“国手”(日本語の「国手」は、「名医」「囲碁の名手」の意)、“国脚”(サッカー選手)などの言い方があり、日本語でも「国体」(「国民体育大会」の略称)など、両言語で異なった使い方もある。

対して、「邦」は両言語ともあまり使わない語で、数少ないいくつかの熟語だけあるが、「国際的な」意味の場合に限定されている。「友邦」「隣邦」など共通する表現があるが、前記の“邦交”を含め、使い方に異同がある場合もある。例えば、“联邦”(「連邦」)という語はあるが、中国語では“德意志联邦共和国”と言い、日本語の「ドイツ連邦共和国」に対して、漢字表現は別として同じ使い方である。しかし、かつて存在していた「ソビエト社会主義国連邦」は、中国語では“苏维埃社会主义共和国联盟”と、日本語の「連邦」に対して“联盟”(連盟)を用いていて、両国の表現が異なる。それから、日本語の「邦」には中国語にない使い方もある。

「邦」の日本語における独特な使い方

初めて日本留学に来た頃、映画を見ながら日本語を勉強するのが日本語上達のより有効な方法と思いつつ、映画館には手が出ず、映画のポスターなどを見たりして我慢した。しかし、「洋画」の意味は何とか解るが、「邦画」の意味に関しては、頭にあったのが上記の「連邦」みたいなイメージしかなく、「邦画」って何なのだろうかと、最初からあやふやだった。だいぶ後になって、ある会合で「邦楽」と言われる尺八という楽器に接して、やっと「邦」は日本を指すということが理解できたのであった。「邦訳」「邦人」など、「邦」は日本人の普段の言語文化生活で大いに活躍している。

国交正常化して50年が経った今、今一度両国の異同を確認し、お互いに学び合いながら進んでいきたいものである。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)