同じレア物という意味だが

2022年4月1日号 /

“凤毛麟角”と「金の卵」

大学の翻訳の授業で、ある中国人留学生が中国語の“凤毛麟角”の日本語訳に「金の卵」を当てた。なぜ「金の卵」かと聞いたら、「金の卵」だから、めったに見られるものではない。だから、珍しいという意味ではないか、という返事だった。

中国語の四字成語の“凤毛麟角”は、字面では鳳凰の羽毛と麒麟の角という伝説上の動物の身体の一部を指すものだが、珍しくてまれにしか見ない事物や人材の代名詞となっている。でも、普段の使い方としては、事物よりも、珍しい人材の形容によく使われている。

学生が使った「金の卵」はおそらく中国語の“金蛋”に当たるだろう。中国語の“金蛋”は字面では「金の卵」である。これは『イソップ物語』から来たものであろう。『イソップ物語』では、ガチョウが生む“金蛋”は金でできているのだから、価値の高いもので、それを生活に必要なものと交換できるものとなっている。現代中国語では珍しい意味よりも、高価なもの、貴重なものという意味である。

 

日本語の「金の卵」の意味

対する日本語の「金の卵」は、これも『イソップ物語』由来だろう。しかし、『イソップ物語』なら、ふつう「金の卵」ではなく、「黄金の卵」として知られている。日本語の「黄金の卵」は辞書には載っていないが、中国語の“金蛋”と似ていて、『イソップ物語』の意味そのものであろう。

「金の卵」は「黄金の卵」と字面では同じ意味だろうが、使い方は違うようである。「金の卵」は、「卵」そのものの意味が働く。つまり、鶏などの生む卵は、そのうちにひなに孵り、そして大きく成長していくという意味合いで、有能な若手社員、若手研究者などのことを譬えて言う場合に用いられる。

4月というのは、学校では新学年が始まり、生徒、学生たちは学校に入り新しい勉強生活をはじめ、会社などでは、新入社員が、新しい人生の一歩を踏み始める。新入生は「金の卵」になる卵であり、新入社員は「金の卵」としてこれから会社の発展のために、一肌を脱ぐということになるだろう。

共にレア物という意味であるが、“凤毛麟角”は珍しい人材の譬えで、「金の卵」は非常に有望で将来を期待できる若い人材の譬えである。

コロナ禍の中でも、新しい年度の始まりに当たり、“凤毛麟角”のような人材は期待できるものではないかもしれないが、多くの「金の卵」の成長を祈りたいものである。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)