新型コロナは「冠たる」疫病か?

2020年9月1日号 /

「コロナ」の話

新型コロナウイルスは、全世界を巻き込みながら未だに終息の兆しが見えない状況である。テレビなどで見るコロナウイルスの写真から想像できるかもしれないが、コロナというのは「太陽大気の最外層。皆既日食の時、太陽の周りに真珠色の淡い冠状の光として見えるもの」。

新型コロナは中国語で“新型冠状病毒肺炎”、略して“新冠肺炎”と言う。さらに略し“新冠”、つまり「コロナ」は中国語ではそのまま“冠”と言うのである。皆様にも馴染み深い「冠」だが、よく耳にする「戴冠式」がある。

国王や皇帝などが即位後、公式に王冠を受け、即位したことを広く示す儀式である。一方「弱冠」は、古代中国で男子20歳を「弱」と言い、元服して冠をかぶる儀式があったことから、男子20歳の異称となっている。

ややこしい“冠”

日本語の漢字は読み方が多くて、日本語学習者の頭の痛い原因になるが、中国語の漢字は、普通日本語の漢字ほど読み方の変化(異読)はない。しかし、“冠”は少し曲者で2通りの読み方がある。

一声で読むときは名詞で「冠」、「冠のような形のもの」だが、四声で読む場合は、動詞で「冠をかぶせる」、「冠する」即ち、「称号などを付ける」になる。それが「一位になる」の意味を持つようになり、「優勝者」を指す“冠軍”という言葉ができた。

さらに“冠軍”の略語としての“冠”がほかの語と組み合わさった新語が生まれ、“奪冠”はチャンピオンを勝ち取る、「優勝する」の意味となる。日本語の「三連覇」という言葉だが、中国語の“三连冠”がこれに当たる。

話をコロナのことに戻すと、WHOでは新型コロナを「2019-nCoV」と命名しているが、中国では俗称の“新型冠状病毒”で通している。個人的には“新冠”はどちらかと言えば、「新しい冠」を連想しやすいので、この使い方はやめた方がいいと思っている。

コロナの“冠”は上述のように、一声の読み方だが、中国では間違って四声で読む人がよくいるようなのである。いっそのこと、WHOの呼び方で統一した方がすっきりするだろう。

ただ言葉というのは、使えば慣れるという習性があり、新しい王冠を想像するより、被害はこれまでの疫病では冠たるものであると理解して使えば、気持ち的には収まるかもしれない。一日も早く、平穏な生活に戻りたいものである。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)