「今後留学する人たちへメッセージ」渡辺 一晴(済南大学)

私は一年間、山東省の済南で学び暮らしました。済南は「泉の都」と呼ばれる街で、市の中心部にまで泉が湧き、湖と緑に囲まれた穏やかな環境が広がっています。自然の豊かさと都市の喧騒が不思議な調和を見せるその環境は、初めての海外生活に抱いていた不安を和らげてくれました。

人々の温かさも大きな支えになりました。山東の人は豪快で親切だとよく言われますが、実際に触れてみるとその言葉以上のものを感じました。道に迷えば一緒に歩いて案内してくれ、拙い中国語でも最後まで耳を傾けてくれる姿勢に幾度も助けられました。言葉が通じないときに感じる無力感は留学の壁のひとつですが、彼らの態度から「伝えようとする気持ちこそ大事だ」と気づかされました。言語学習は単なる発音や文法の習得ではなく、人と心を通わせるための手段なのだと実感できました。

済南では標準語だけでなく山東方言がよく使われていました。最初は授業で習った中国語との違いに戸惑いましたが、聞き慣れていくうちに方言のリズムや語感に面白さを感じるようになりました。言葉にはその土地の歴史や人柄が刻まれており、方言に触れることで「中国語を学ぶ」から「中国の文化に入り込む」へと自分の学びが深まったように思います。

寮での生活も印象深い経験でした。キューバ、タイ、ジャマイカなど多様な国から集まった仲間と寝食を共にし、音楽や食文化、スポーツについて語り合いました。彼らの考え方や価値観に触れることで、自分が当たり前だと思っていた基準が相対化されました。例えば、キューバの友人は音楽を奏でながら一日を楽しみ、タイの友人は食事を囲む時間を大切にします。そうした姿勢から「効率」や「成果」だけでなく、生き方の豊かさについて考えるようになりました。

学外の言語交流会にも参加しました。そこでは中国語に加え、フランス語やスペイン語、韓国語、日本語などが飛び交い、互いの母語を教え合いました。多言語の場では、自分の中国語力を試されると同時に、他者の言語を尊重する姿勢が求められます。異なる文化を背負う人と対等に語り合うには、流暢さよりも「相手の背景を理解しようとする態度」が大切だと学びました。

さらにサッカーを通じた交流も忘れられません。学校主催の大会ではチームとして勝利を目指す過程で中国人学生と自然に打ち解けることができました。言葉が通じなくても、パスを出すタイミングやゴールを喜ぶ仕草には国境がありません。授業後に友人たちと集まってボールを蹴った時間は、語学の勉強以上に「信頼関係を築く方法」を教えてくれました。スポーツは言語を超えて人を結びつける力を持つのだと強く実感しました。

済南で過ごした一年は、単なる語学留学にとどまりません。言葉を学び、人と出会い、異なる文化に触れる中で、自分の考え方や生き方そのものが揺さぶられました。これから留学する皆さんには、ぜひ一歩踏み出す勇気を持ち、失敗を恐れず人と関わってほしいと思います。その経験は必ず、自分を大きく成長させる糧になるはずです。