「百聞は一見にしかず」木村水映(北京外国語大学)

慌ただしくも充実した2023年。上半期は仏語力強化を目的としたフランス短期留学、下半期は中国への長期留学と日本の外へ足を踏み出し実践的に学ぶ機会に恵まれた。経験した全てが血となり肉となり骨となった実感を得られた、間違いなく19年で最も濃厚な一年。そんな2023年を締めくくる今月は、2泊3日の西安旅行を皮切りに始動した。

 

西安名物・ビャンビャン麺の美味しさといったらそれはもう、私の舌が忘れさせてくれない。包丁を使うことなく製麺するのが特徴の平打ち麺。注文後に生地が練り始められた為、目の前でモチモチの極太麺が仕上がる様を見届けることができた。生地を台に叩いては延ばし、叩いては延ばす鮮やかな手捌きはまさに職人技。息も忘れてしまうほど魅了された。

 

麺を打ちつける音の力強さとつるんとした喉越しの優しさとのギャップに一発ノックアウト。肉の旨みが凝縮された出汁の香りがふわりと鼻をくぐり、トマトの酸味が全体をすっきりと引き締める。師走の寒空に冷えた身体に染み渡る格別の一杯だった。

 

一文字にして57画、漢字の中でもトップレベルの難しさを誇る「ビャン」。麺を打つ音に由来し名付けられたとの一説も。

 

 

至近距離で見る兵馬俑は、歴史資料集では伝えきれない気迫があった。よくよく目を凝らしてみると、一人ひとりの表情や身振り、服装の違いが見て取れる。頭・胴・腕・手・脚・衣服・武器などの各パーツがそれぞれ別々に作られたものだということも初めて知った。本物の人間さながらの生々しさは、この緻密な造りに秘密があったのかと衝撃を受けた。兵士たちの足踏みが、2000年以上の時を越え今もなお轟いているようだった。

 

2000体もの兵士が並ぶ1号俑坑

 

当時の彩色が鮮やかに残る奇跡の1体

 

 

「世界遺産」と聞くと、外国人観光客が多い印象を抱くのではなかろうか。実際私も、そのようなイメージを持つ一人だった。しかし、今まで訪ねてきた万里の長城や頤和園、兵馬俑などの中国の世界遺産は、想像とは異なる様相を呈していた。驚くべきことに、観光客の殆どが中国人なのだ。人口が多いということも理由のひとつに違いないが、自国の文化に対する中国人の興味・関心度の高さには目を見張るものがある。

 

学生や社会人らしき若者も少なくなかった。私が世界遺産を訪ねるのは概ね、授業が早く終わる金曜日、つまり平日だ。学校や仕事がある中、わざわざ休みを取ったのだろうか。「平日に休みが出来たぞ、よし、江戸城に行こう!」と出発するようなものなのだろうか。

 

彼らが対象に向けていた熱視線も印象深い。ガイドの話にじっと耳を傾け、ターゲットを隈なく観察する。溢れる好奇心に蓋をすることなく、興味の矛先を真っ直ぐに追い求める姿勢。自国の遺産に対する深い敬意とプライドが垣間見えたようで、自分でも思いがけない場面で感銘を受けてしまった。

 

楊貴妃が湯浴みしたことで知られる華清宮にて鑑賞し、心震えた『長恨歌』の舞台

 

大学で老舎について学んだその日のうちに訪れた老舎茶館。何度も動画で観てきた変面を初めて目の前で見ることが出来た感動は忘れられない。

 

北京では珍しくクリスマスの装飾がなされていたカフェ