「無限の場(Infinite Place)を持つということ」浅野 亜理紗(北京大学)

前章の「海外での日本人らしさとは」に続き、本章は「無限の場(Infinite Place)を持つということ」について述べる。前章にて、私自身が混血だということに加え、中国国内で住民の大部分が少数民族の新疆カシュガル地区への旅行経験から、私は国籍の概念に対し強い思いを持たないことを述べた。一方で対象の国に関わらずある国に対して興味を持つという要素が母国の発展、ひいては他国、そして世界の発展に必要不可欠な個人の成長に必要な変化と行動の原動力をもたらす無限の可能性を秘めているのだと中国留学を通じて強く感じた。

 

今回の留学で、日本に関わらず中国に興味を持つ者たちとの長期的な交友の機会を得た。彼らの中には、中国の政治経済のみならず京劇や孔子、中国の方言、漆器などかなりニッチな文化に関心を持っている者がいた。私に関して言えば、彼らのように中国のもので何か特別大好きで熱中できるものはなく(強いて言えば中国語の歌だ)、これまで一目惚れのように理由が分からないまま中国が好きでいた。どうして中国に興味があり、中国が好きなのかよく聞かれるが、その言語化は難しい。縁が巡り、私はただ中国が好きなだけだ。しかし、私は17歳から約6年間中国に対して興味を持ち続けついに中国留学を果たした経験から、1つの道理が解った。それは、母国以外の国に興味関心を持つことは外の世界に自分の周囲すなわち母国にないモノや人を求めることだということだ。この過程は国家間、文化間等における各々の相違に触れ、新たな感覚の獲得を同時に意味する。相違との出会いと新たな感覚の獲得こそが、自身の常識や母国を第三者の視点で俯瞰的に捉えるきっかけとなるだ。母国を俯瞰的に捉えることが可能になると、様々な物事に対する思考と試行の柔軟性が高まり、結果的に新たな変化や行動を起こす機会を個人にもたらすのではないだろうか。

 

内閣府(2017)の報告によると世界のGDPに占める日本の割合の推移として、1995年は17.6%だったが2010年には8.5%となり、2040年には3.8%にまで低下するとの国際機関の予測もなされているとのことだった。また、近年日本の若者の海外に対する興味の低下を示す「内向き化」に関する調査結果を提示した上で、若者のグローバル意識低下がビジネス界における日本の国際競争力の低下を招くと警鐘をなす報道や記事がある。確かに日本の若者や子どもたちに対する国際教育の見直しと強化は必須だと個人的にも同意だが、その目的として超高齢社会や国際社会におけるプレゼンスの低下による社会全体の成長の停滞と低速の危機と向き合うべき日本の国際力強化のためではなく、個人の学びにおける満足度を上げ人生の幸福度を上げるためだとここで私の考えを宣言したい。他国の文化や社会に興味を持つと、それらを更に理解するため、またはその国の人々と自分で意思疎通を行うためにも外国語を勉強しようという気持ちが起きる。それから言語学習を通じてより多くの人との交流が可能となると自分の世界と行動範囲が広がる。この連鎖を個人にもたらす母国以外の自分の好きな外国を「無限の場(Infinite Place」と私は名付ける。(本来であれば、「無限の可能性を持つ国」という表現が最適かもしれない。)一般的に自宅を指す第一の場(First Place)、学校や職場を指す第二の場(Second Place)、そしてオルデンバーグが著書の「ザ・グレート・グッド・プレイス(The Great Good Place)」の中で提唱した第一の場と第二の場以外の安らぎを与える場を意味する第三の場(Third Place)に加え、私は、「無限の場(Infinite Place」としてすべての人が母国以外に自分の好きな国を一か国持つことの重要性を伝えたい。これは、同調意識が他国よりも比較的強い日本人にとって、包容力を向上させるという点でも、母国での失敗や居場所のなさからくる孤独感やストレスを軽減させる要素や生涯学習を促進させる点においても欠かせない要素であるだろう。したがって、グローバル化に対応する力を養うためだけでなく、何よりも個人の幸福度を向上させる点で「無限の場(Infinite Place」は、これからの時代必須な概念であるに違いない。

 

音楽家の坂本龍一が残した下記の言葉がある。

 

「息苦しい社会に対しては、『引きこもるか、アウトローになるか、外国に出るか』が有効な手段だ。」

 

私はこの言葉に同意だ。自分が存在する社会が自分にとって息苦しい社会出なかったとしても、外国に出ることは有益な影響をもたらす。だが、外国に出るということの前に、好きな外国を持つということがより重要だと私は強調する。そして、より活き活きとする人生を送る人が増えるため日本のすべての人が、自分が好きな海外を一つ言える国に日本がなればと願う。

 

(動画1 初めて人前で、そして中国で歌った作詞作曲の歌「爱你的回忆」。無限の地と出会えたからこそ創れた歌だ。)