香港の旅で「鉄道」といえば、「乗っているだけで楽しい」2階建てのトラムを連想する人が多いだろう。もちろん、有名なトラムもおすすめではあるが、今回は2019年の開業時にマカオ初の鉄道として話題になったLRTと、「動かなくても楽しい」香港鐡路博物館を取り上げたい。
博物館はファン向けだが近くに歴史ある露店街があるし、LRTはアトラクション的な面白さがあるので、ファン以外でも満喫できるはずだ。
マカオ初の鉄道LRT
長らく鉄道が存在しなかったマカオに、初の路線が誕生したのは2019年12月。LRT(澳門輕軌)の氹仔碼頭―海洋間で、マカオの中国返還20周年に合わせたビッグプロジェクトのひとつであった。
現状、観光客の利用は少ないようだが、空港と高速船ターミナル利用者にとっては便利な移動手段となっている。車窓にはマカオならではのダイナミックな風景が広がり退屈しないので、沿線に用がなくても、ぜひ乗ってみてほしい。

始発は媽閣駅。近くには観光客で賑わうユネスコ世界遺産の媽閣廟があるのだが、ほとんどの人が頻発するバスを利用するので、真新しい駅は閑散としていた。媽閣―海洋間は、開業から4年後の2023年12月に延伸した区間で、海底トンネルを抜けてマカオ半島からタイパ島へ上陸する。

2両連結の車両は、ガラス部分が多く、地上に出ると明るく開放的な雰囲気に包まれた。ゴムタイヤ式の無人運転で、トンネル以外は高架を走る。「ゆりかもめ」を手掛けた三菱重工業製とあって、外観も乗り心地も似ているように思う。

ワイドな眺望が楽しめる
LRTには「オーシャン・クルーズ」との愛称が付けられ、「海洋」駅もあるのだが、残念ながらオーシャンビューは現れない。次の馬會駅は、2024年に廃止されたマカオ競馬場の最寄り駅であった。大盛況の香港競馬とは対照的に、カジノ王国のマカオでは、競馬文化が下火になってしまったようだ。

コタイ地区に入ると、ド派手なカジノホテルが次々と視界に飛び込んでくる。カジノにはまったく興味はないが、このマカオでしか体験できない奇怪な景観を眺めるのは楽しい。
蓮花駅と協和醫院駅からは、それぞれ横琴駅と石排灣駅へ向かう1駅だけの支線が通じている。海底トンネルを渡った先にある横琴駅は、地下ホームから地上に出ると、広東省珠海市へ続くイミグレーションがあり、終日、人の流れが絶えない。

横琴線(2.2㌔)は、2024年12月に開業したばかりのLRTで最も新しい路線。半島側の主要イミグレーションが飽和状態になっている状況下、重要な役割を果たしているといえる。
石排灣線(1.6㌔)が分岐する協和醫院駅は、駅から至近の場所に巨大な病院がそびえている。病院名が駅名に採用されるパターンは珍しい。終点の石排灣駅からしばらく歩くと、パンダが人気を集める石排灣郊野公園があるが、バスならば公園入口まで行ってくれる。並ばずに会えるので、日本国内からパンダがいなくなり、悲しんでいる方はぜひ。
本線(タイパ線)に戻ろう。機場駅はマカオ国際空港と直結している。マカオ半島中心部からのアクセスは、渋滞などのリスクがないLRTの利用価値は高い。香港と比べ便数は少ないものの、日本からの直行便も就航している。
12.5㌔を約30分かけて走り、終点の氹仔碼頭駅に到着。香港行きの高速船ターミナルが隣接しているが、待合室はガラガラだった。香港―マカオ間の移動は、安くて眺望もいい港澳珠大橋経由のバスにシェアを奪われているという。
人口の比較では、香港の10分の1程度と分母が小さいこともあり、LRTは全体的に空席が目立っている。基本は2両でラッシュ時のみ4両。今のところはそれで十分とはいえ、利用者数は順調に増加しており、将来的には半島内を横断・縦断する新路線が建設される計画だ。ネットワークが拡充されれば、観光客の需要も増えるに違いない。



鐵路博物館のレトロ客車
香港MTR東鐵線の太和駅で下車し、林村河沿いの寶雅路を進んでいくと、やがて太和橋がみえてくる。対岸は下町っぽい猥雑としたエリアで、なかでも約150㍍の路地に小さな商店が並び、生活感があふれる富善街は、「こんな香港もあるのか」と思わせてくれるだろう。

下町ならではの活気がある
通りの途中には、学問と武道の神様を祀った文武二帝廟があり、地元の買い物客が当たり前のように立ち寄っていく。このあたりは安くておいしいグルメが揃っているので、見学前に腹ごしらえをしておこう。

博物館は無料なのも嬉しい
富善街の突き当りを右折すれば、そこが目指す鐵路博物館だ。1913年に造られた旧大埔墟駅をそのまま使っており、屋外には、フィリピンに移ったのち香港に里帰りした英国製の狭軌蒸気機関車や、1910年代から1970年代末期にかけて九廣鉄路(東鐵線の前身)で活躍した英国製のレトロな客車などが展示されている。

6両の客車には乗車することができ、古びた木製の椅子に腰かけ、往時の情景を想像するのは至福のひとときだ。なかでも「313號三等車」は、電化後の1980年まで現役だったらしく、当時を知る世代にとっては、たまらなく郷愁を感じる特別な車両であるという。
鉄道ファンばかりかと思いきや、若い女性グループの姿も。「鉄子」の可能性もないではないが、木のぬくもりが醸し出す「エモさ」に魅かれているのかもしれない。
動かない客車でぼんやり過ごしていると、突然、電車の走行音に静寂を破られた。柵が設置されているので気付かなかったが、すぐ真横を東鐵線が通っているのだった。
1910年に開業した東鐵線は香港最古の路線。MTRで唯一、1等車が連結されているところにも伝統を感じる。

(内海達志)




