日本人観光客に人気の香港・マカオ。香港なら100万ドルの夜景、ナイトマーケット、ディズニーランド、マカオなら世界遺産の歴史的建造物、カジノなどがおなじみだが、こうした定番スポット以外にも、「こんな素晴らしいところがあったのか!」といった「穴場的」な見どころが少なくない。そんな筆者がお気に入りのスポットを、シリーズで紹介していきたいと思う。
第1回のテーマは「夜景」。きらびやかな光の世界は、ただ眺めているだけで、あっという間に時間が過ぎていく。
「無料」で夜景を満喫
香港は夜の散策が楽しい街である。旺角の「男人街」、油麻地の「女人街」などのナイトマーケットは、世界中から観光客が集まり、深夜まで賑わいが絶えない。
そして、ヴィクトリアピークから望む100万ドルの夜景。圧倒的な光の量と、まばゆい光線がおりなすショーは圧巻だ。
こうした有名スポットは、香港が初めてという人には外せないだろうし、リピーターも多いに違いない。しかし、いつも人が多すぎるのが難点で、静かな時間を過ごしたい筆者にとって、最近は足が向かない場所になっている。
これから紹介するのは、混雑とは無縁のおすすめ夜景観賞スポットである。まずは、九龍半島と香港島を結ぶスターフェリー(天星小輪)。尖沙咀―中環・灣仔間の2ルートがあり、レトロな船がヴィクトリア湾を頻繁に往復している。なんと1958年製の船も、まだ現役で活躍中という。

観光客にもおなじみで、「知る人ぞ知る」存在ではないものの、山頂への足であるピークトラムのような大行列とは無縁で、約10分と短いながら、優雅な船旅を満喫できる。
乗船口は1階(2等)と2階(1等)に分かれているが、ここは迷わず1等へ。料金は1香港ドル(約20円、以下香港は省略)しか違わないが、デッキからの眺めは断然、上階のほうがいい。

総じて日本より物価が高い香港で、わずか5ドル(休日は6・5ドル)という安さも魅力だ。尖沙咀のフェリーターミナルには、夜景をバックに写真を撮る若者が集まっているが、対岸に用がなくても、乗る価値があると思う。
そして、尖沙咀では、ターミナルに隣接する複合商業施設「ハーバーシティ」(海港城)にも立ち寄りたい。目的はショッピングでもグルメでもなく、最上階のビュースポット「海運觀點」である。建物に入ったら、左奥の海側へひたすら進み、エスカレーターで5階へ上がる。すると、眼前に広がるのは幻想的な光の世界だ。

山頂ともフェリーとも異なる高さが新鮮で、屋根のないオープンスペースなのも気持ちがよい。しかも無料だ。
地上には人があふれているのに、ここはなぜかガラガラだった。この日は少し肌寒かったのだが、なかなか立ち去ることができない。昼間もまた、海風に吹かれて爽快だろう。

スターフェリーは中環航路がメインだが、もうひとつのおすすめは、灣仔フェリーターミナルの屋上だ。こちらも、もちろん無料で「海運觀點」以上に人が少ない。
九龍側の夜景を観賞するベストスポットで、だんだんと近づいてくるフェリーに見入ってしまう。道路を挟んだ向かいにあるのは、MTR東鐵線の(地下鉄)の會展駅。尖沙咀行きに乗船する際は、港島線の灣仔駅で降りてしまうと、かなりの距離を移動することになるのでご注意を。同じスターフェリーでも景色が違うので、ぜひ2つの航路を昼夜、計4回体験してみたい。

楽しいフェリーと競馬場
ヴィクトリア湾のフェリーは、もう2つ航路があり、サンフェリー(新渡輪)が北角―九龍城・紅磡間で運航している。こちらは地元客向けで観光客の姿は少なく、ターミナルにも船内にも、のんびりとした空気が漂っている。
北角のターミナルは、MTR港島線の北角駅から歩いて数分。乗船口へ続く通路に、鮮魚店が並んでいるのが面白い。サンフェリーは、23時台まであるスターフェリーと比べ、最終便が19時30分前後と早く、便数も少ないので、夜景というよりは日没の時間帯がよい。夕焼け空の下、高層マンションに灯がともる風景は「日常」の味わいがある。
MTRへの乗り換えは、九龍城は屯馬線の土瓜灣駅、紅磡は觀塘線の黃浦駅が近い。1等と2等の区別も休日料金もなく、一律8・5ドル。よほど急ぐ場合でなければ、MTRであっという間に海底を通過してしまうのはもったいない。

香港にはシャーティン(沙田)とハッピーバレー(跑馬地)の2つの競馬場があることは11月号で記したが、ナイター開催の後者は独特のムードがあり、白熱したレースのみならず「夜景」という点でも魅かれるものがある。
アクセスは香港名物の2階建てトラムが便利。本線から迂回し、競馬場の前まで運んでくれる。トラム自体、アトラクション的な要素があり、せり出し看板が並ぶ夜の大通り(ヘネシーロード)を走る時間も胸が高鳴る。
久しぶりに訪れた競馬場は、若い女性やビジネスマンふうの欧米系外国人が目立ち、グルメやビールのブースでは「看板娘」が元気に声を張り上げるなど、エンタメ色が強くなっていた。11月号では、昔の記憶を頼りに《競馬新聞を手にしたおじいさんが似合う》などと書いてしまったが、記事のイメージよりはエネルギッシュな娯楽施設であると訂正しておく。

高層マンションに囲まれた芝コースを疾駆するサラブレッドは美しかった。馬券の買い方は日本とそう変わらないが、有人窓口での販売は1点あたり最低20ドルと日本の4倍なので、買い目を絞るのが難しい。
筆者は「馬連」にチャレンジしたが、最初のレースは、マークカードを塗り間違えて締め切り時刻に間に合わず。狙った馬が来て、高級中華にありつけるくらいの配当がついたので悔しかった。欲を出した次のレースは、あえなく惨敗。ビギナーズラックを逃したのだから、当然の結果ではある。
(内海達志)




