不遇の仙人・黄龍真人

2026年4月1日号 /

封神演義

黄龍真人(こうりゅうしんじん)は、闡教の十二大仙の一人、二仙山麻姑洞(にせんさん まこどう)の洞主である。騎獣は仙鶴であり、宝剣を持ち戦う。他の仙道のように特別な騎獣や宝器を持たず、さらには弟子もおらず、目立った活躍の場面も見られない。一見すると特徴が弱い仙人である。

物語の初登場は第四十四回。周軍が十絶陣に苦戦している際に他の十二大仙とともに助力に駆けつける。だが、十絶陣を破るための指揮をとる燃灯道人に指名されることなく、黄龍真人が直接陣を破ることはない。一方で十絶陣が破られる度に聞仲は怒り闡教に向かい攻撃を仕掛ける。秦天君の天絶陣、董天君の風吼陣、孫天君の化血陣が打ち破られた際、攻め込む聞仲に対して黄龍真人は真っ先に立ち塞がり聞仲を追い返している。

また、十絶陣に挑む最中、趙公明によって姜子牙が討たれる場面がある(物語で姜子牙は七死三災の運命にあり、何度も死んでは生き返る)。さらに攻めて来た趙公明に対して黄龍真人が迎え撃つが、趙公明の宝器・縛龍索(ばくりゅうさく)によってあっさり捕えられ、軍門の旗竿に吊るしあげられる。その際、泥丸宮に符印を貼られ元神の気を封じられ逃げ出すこともできない。後に楊戬によって助け出される。その後も趙公明の三人の妹との戦いでは、その一人、雲霄(うんしょう)が使う宝器・混元金斗(こんげんきんと)によって他の十二大仙とともに捉えられ、万仙陣の戦いでは、馬遂(ばすい)の宝器・金箍(きんこ。箍は金属製の輪のこと。孫悟空の頭には緊箍児がつけられる)を頭に付けられ締め上げられる。いずれも後に元始天尊によって助けられる。

黄龍真人が住む二仙山であるが、この名前を聞くと『水滸伝』を思い出す方も多いのではないだろうか。薊州(けいしゅう。現在の天津市の一部)の二仙山には羅真人という老道士が住む。羅真人の弟子が梁山泊の一人、天間星の公孫勝である。公孫勝は道術を使いたびたび活躍を見せるが、公孫勝に術を授けたのが羅真人である。

また世界遺産で有名な四川省九塞溝より百㎞はなれた四川省東北部に黄龍風景名勝区がある。ここは世界自然遺産や世界生物圏保護区にも指定されている。そこの五彩池のほとりには明代に創建された黄龍寺がある。伝承では、伝説の皇帝禹王が船に乗り洪水を治める際、その船に黄色い龍が現れ治水を援けたという。後にこの龍はこの地に舞い降り神になった。黄龍真人はその化身とも言われる。これが『封神演義』の黄龍真人と直接の関係にあるかはまた別の問題として、中国各地にて黄龍真人に由来するとされる伝承を見ることができる。

文 ◎ 二ノ宮 聡
1982年生まれ。中国文学研究者。中国の民間信仰研究。関西大学大学院文学研究科中国文学専修博士課程後期課程修了。博士(文学)。北陸大学講師。

絵 ◎ 洪 昭侯
1967年、中国北京生まれ。東京学芸大学教育学部絵画課程卒業。(株)中文産業のデザイナーを経て、2014年、東方文化国際合同会社設立。