仏に成仏を予言した者・燃燈道人

2025年8月1日号 /

封神演義

闡教と截教の戦いにおいて闡教側の中心が姜子牙であることはすでに何度も紹介してきた。一方で、十絶陣や万仙陣の戦いなど闡教の総力を挙げて挑む場面では、姜子牙ではなく燃燈道人(ねんとうどうじん)が主導している。

燃燈道人という名前から分かるように、仏教の燃燈仏が由来する。定光仏、錠光仏とも漢訳される。燃燈仏は、釈迦が儒童梵士と呼ばれた過去世において、未来に成仏する約束の予言を釈迦に告げた如来である。名前には灯火を輝かす者という意味があり、肩に炎を有する。

物語では、闡教に燃燈道人、截教に定光仙がいる。本来であれば、同一人物であるはずの両者が各陣営に登場するのはおかしい。しかし『封神演義』は登場人物の設定が曖昧であり、死んだはずの者が再び登場したり、別名で登場するなど多々あるので、これら矛盾をあまり真剣に考えないほうがよい。

燃燈道人は霊鷲山元覚洞(りょうじゅせん げんかくどう)の洞主である。登場は早く第十四回である。哪吒(なた)が李靖(りせい)を追い回し殺そうとした時、李靖に手を貸し、玲瓏塔(れいろうとう)で哪吒を懲らしめると、最終的に二人を和解させた。この時、太乙真人の依頼により、燃燈道人は哪吒の凶暴性をおさめ、李靖との父子関係を和解させるために登場したのであった。

十天君の十絶陣を打ち破るため、姜子牙や十二大仙の誰が先方を務めるか決めかねていた時、燃燈道人が遅れて駆けつける。そして姜子牙から軍を管理する証の符印を譲り受け、破陣のための中心となる。また趙公明との戦いでは、乾坤尺で傷を負わせ、定海珠を奪い取るなどしている。その後も誅仙陣や万仙陣、その他の戦いにおいて大きな活躍を見せる。

誅仙陣で通天教主(つうてんきょうしゅ)との戦いでは、闡教は元始天尊(げんしてんそん)・老子・接引道人・準提道人で挑み、通天教主を追い詰める。四人の攻勢により陣から土遁の術で空に脱した通天教主であったが、燃燈道人の定海珠により落とされ敗走する。

物語の最後、西方に縁のある他の仙道と共に燃燈道人は西方教に帰依する。その後、西の地に至り、どれほどの時を経て、釈迦に成仏の予言をしたのであろうか。

文 ◎ 二ノ宮 聡
1982年生まれ。中国文学研究者。中国の民間信仰研究。関西大学大学院文学研究科中国文学専修博士課程後期課程修了。博士(文学)。北陸大学講師。

絵 ◎ 洪 昭侯
1967年、中国北京生まれ。東京学芸大学教育学部絵画課程卒業。(株)中文産業のデザイナーを経て、2014年、東方文化国際合同会社設立。