「湯湯婆」と「湯婆婆」

2026年2月1日号 /

文字と文化

2月になったが、二十四節気上ではまだ大寒たけなわで、セントラルヒーティングでない日本の住宅では、まだ相当の間、ゆたんぽが必要になることだろう。

中国の山西省の田舎では、オンドルの生活だった。冬はオンドルの下で火が焚かれているので、マイナス20度近い冬でも、オンドルに横になると、体の下からぽかぽかと温かさが伝わってくるので、ゆたんぽが無くても忍ぶことができる。故に、小説などでゆたんぽのことは分かるものの、どういう物なのか実感がなかった。

北京の冬は田舎よりも寒かったような気がした。しかし、大学生活では、冬はセントラルヒーティングなので、それほど寒さを感じなかった。女子学生の間で、ゆたんぽを使用しているという噂は聞くものの、男子の宿舎では、ゆたんぽを見たことがなかったような記憶である。

結婚して、冷え性の妻がいつも足が冷たいというので、ゆたんぽを使っていた。そこで、初めてゆたんぽを見たのである。

ゆたんぽは日本語で、漢字で書くと「湯湯婆」となる。なぜ湯の文字が2つ続きの書き方なのだろう。中国では宋の時代には、すでに〝汤婆〟(湯婆)が使われていたという。それが日本に伝わったのは、室町時代と言われている。しかし、「湯婆」という言い方は唐音なので、一般の人々にはやはり難しかったようで、結局その前に、「湯」という日本語を加え、はっきりとその意味を示すようにしたというエピソードがある。結局、現在の「ゆたんぽ」(湯湯婆)は2つの「湯」の文字がつづきざまになるという滑稽な表記となっている。

「湯婆婆」の話

2つの湯の文字が修飾語になる「湯湯婆」は、寝床などに入れて、足や体を温めるのに用いる道具だが、1つの湯の文字の後ろに2つの「婆」が続いた「湯婆婆」という言葉は何なのか。

実はこれは、ジブリ映画『千と千尋の神隠し』に登場するキャラクターである。その読み方は「ゆばあば」である。しかし、「湯」の文字は「ゆ」と読めても、2つの「婆」が続いた「婆婆」という語は、読めないだろう。というのは、1つの文字の「婆」は普通、「ばば」と読み、2つの「婆」の連続の語は、辞書には載っていないようである。つまり普通の日本語ではない。

しかし、日本語には、「ばあさま」とかいう言葉があり、「ばばあ」というあまりよろしくない意味の言葉もある。そして、日常では、祖母のことを「ばあば」と呼ぶことがある。この「ばあば」には、結局、「婆婆」という文字を充てることができる。映画の「湯婆婆」は「湯」という文字にこの「婆婆」をくっつけたものであろう。

実際、中国語では、方言によるが、「婆婆」はお年寄りの女性を指すことがある。現代中国語の〝汤〟(湯)はお湯のことではなく、スープのことだが、ジブリ映画のキャラクターである「湯婆婆」の中国語訳は〝汤婆婆〟となっていて、ここでは日本語の「湯」の意味も生かされ、昔の意味が蘇っているのである。

ネット上では、「湯婆婆」は「湯湯婆」からきているという説もあるようだが、文字の組み換えは文化の組み換えでもあろう。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)