“秀” と「ショー」

2025年12月1日号 /

“脱口秀”の話から

近年、中国ではエンタメの1つとして〝脱口秀〟が流行っている。この3文字だけ見ても、日本の皆様には意味が分からないだろう。〝脱〟は日本語の「脱」にあたり、それほど分かりづらい字ではない。日本語の「脱」には意味がいろいろあるが、「身に着けたものを取り去る」が「脱ぐ」の基本的な意味で、熟語としては「脱衣」や「脱皮」などがあり、このほか、「抜け出す」という意味で「脱出」、「抜く」という意味で「脱臭」、「抜け落ちる」という意味で「脱字」、「外れる」という意味で「脱線」などがある。しかし、日本語には「脱口」のような言葉はない。

中国語の〝脱口〟は、日本語的に考えればややこしいが、「口をついて出る」という意味で考えてみれば、それほど分かりづらい言葉でもない。中国語としての〝脱口〟は普通そのまま熟語としては使われておらず、大体、〝脱口而出〟のような四字熟語の構成部分として使われる。〝脱口而出〟は、〝而出〟という言葉を補っているが、意味としては特に変わりはない。

〝秀〟と「ショー」

件の〝脱口秀〟は外来語で、英語のtalk showの発音を模して、しかも、〝脱口〟の意味を生かした、名訳と言えそうである。英語のtalk showは、普通、「トーク番組」の意味として使われているようで、中国語の〝脱口秀〟は、元々英語、そしてその日本語訳としての「トークショー」と似ていたかもしれない。しかし、現在の〝脱口秀〟は、多くは、舞台の上で1人の役者が話を披露するというものである。役者は面白おかしいパフォーマンス、内容及び巧みな話術によって観客の笑いを誘う。最初は規模的に小さかったが、社会的に大きな反響が巻き起こり、現在では、上海をはじめ、西安などにも劇場を持ち、一定の集客力を持つエンタメとして、若者を中心に、多くの人をひきつけている模様である。

ところが、肝心な〝秀〟の意味についてだが、〝脱口秀〟よりも前にfashion showの中国語訳として〝时装秀〟というのがあった。〝秀〟は、元々の「秀でる」という意味に、このshowという意味が加わり、新しい使い方が生まれたのであった。

日本語に入った「ショー」は、基本的には「舞台を中心とする演劇などの見世物・興行」の意味で、「ショー」をするという使い方もあるが、あくまでも名詞的な使い方である。しかし、中国語になった〝秀〟は、中国語という舞台でさらに進化し、ショーをする意味から、「見せる」「見せびらかす」という意味も持つようになり、〝~秀〟という使い方がある一方、〝秀~〟のように動詞としても使うことができるようになっていった。〝秀肌肉〟(「筋肉を誇示する」)、〝秀豪车〟(「高級車を見せびらかす」)など、使い方もいろいろとある。

言葉というものは学び合い、融合し合い、発展している生き物である。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)