中日の“老人”の話
9月は日本では敬老の日のある月で、今回は中日における高齢者〝老人〟という言葉をめぐってお話ししよう。
〝老人〟という言葉は中日ともに用いられる言葉だが、意味と使い方には相違がある。
まず、中国語の〝老人〟は、例えば公園にたくさんの〝老人〟が集まって太極拳をやっている、という場合の〝老人〟は、一般的な意味で、〝老年人〟ということもできる。対して、ある家族で、その子供達が〝老人〟に孝行を尽くしている、という場合の〝老人〟は、「親」「祖父母」の意味となる。さらに、会社などの組織の中では、古くからいる古参者のことを〝老人〟と言うことができる。この後者2つの場合、〝老年人〟と言い換えることができない。
〝老人〟にしても、〝老年人〟にしても、性別の区別はない。性別を区別しようとする場合は、男性を〝老头儿〟と言ったり、近年あまり用いられなくなったようだが〝老汉〟「老漢」という言い方もある。対して、女性は〝老太太〟〝老太婆〟と言ったりする。いずれも話し言葉である。〝老人〟〝老年人〟の尊敬語的な言い方は〝老人家〟である。
そして、家族にちなんだ呼び方では、男性の老人は〝老大爷〟〝老爷爷〟と言い、女性の老人は〝老大娘〟〝老奶奶〟と言ったりする。
〝老人〟からなる熟語は少ないが、近年、日本語から来た〝留守老人〟(子供達が出稼ぎなどに行って田舎に残された老人のこと)という言葉がある。
日本語の「老人」
日本語の「老人」という言葉は、中国語と違い、「年を取った人」という意味しかない。漢語のほか、「老い」「年寄り」などの和語もある。「老人」は文章などによく用いられ、複合語などを構成するのに一役買っている。例えば、老人病、老人病院、老人福祉、老人福祉法、老人施設、老人性認知症、老人ホーム、そして独居老人などがある。さらに「老人の日」「老人週間」などもあり、日本語における「老人」の活躍は著しい。
「老人」に対して、普段の生活でよく用いられているのは、和語の「年寄り」である。丁寧な言い方は「ご老人」「お年寄り」などがある。
近年、「老」というニュアンスが嫌がられ、「高齢者」という言葉がよく用いられるようになってきた。さらに人生百年という時代に応じて、「後期高齢者」などのように、高齢者をさらに細かく分けた言い方もある。また、外来語として「シニア」という言葉もあり、さらに面白いことに、中国語を語源とした外来語の「ロートル」という言葉がある。
以上の言葉は、中国語に似ていて、性別を分けていないが、性別を分けた言い方は、書き言葉の場合、男性を「老翁」「老爺」、女性を「老媼」「老婆」という言い方はあるが、「老婆」以外は、あまり知られていない言葉であろう。
結局、男女を区別した言葉はやはり家族的な言い方になり、「おじいさん」「おばあさん」などである。
老人、年寄りは、『姥捨て山』で語られているように、素晴らしい知恵の持ち主である。これからの時代でも、大切にされていくべきである。
(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)