“黄牛”、“老黄牛”の意味

2025年8月1日号 /

「黄」の意味をめぐって

日中間で色に関する研究が盛んであり、「黄」に関する論述が多く出ている。今回は、学術的なものはさておき、日常的なことに関して、「黄」について述べてみたい。

黄色は、日本では「七色の一つ。菜の花の花の色やイチョウの葉の黄葉した色」などとされ、「幸福の黄色いハンカチ」という映画でも知られているように、黄色には決まったイメージがあるように思われる。中国では、黄色と言えば、基本的には「へちまや向日葵の花のような色」とされているが、伝統的には陰陽五行(木、火、土、金、水)で示されている「青、赤、黄、白、黒(玄)」という五色のうち、土を代表する黄色のことである。土の黄色の代表的なものは、中国の北方一帯を覆う「黄土高原」だ。古から多くの中国人が生活の拠り所としてきた、広大な高原である。さらに、この黄土高原を流れる中国の母なる大河・黄河は、「黄」という文字を持つものの、その色は向日葵の花のような色ではなく、むしろ、有名な壺口瀑布の滔々たる濁った水のような、赤みを持った濃い色である。

色以外の意味でも、日本語では「黄色い声」のように、「甲高い」という意味を表したり、中国語では〝买卖黄了〟(商売・取引がおじゃんになった)のように、事業などがだめになるといった動詞としての使い方があったり、さらに「エログロ」の意味で形容詞として使われたりする。

〝黄牛〟〝老黄牛〟の意味

さて、タイトルの〝黄牛〟〝老黄牛〟については、上記の黄河に関する説明でも分かるように、〝黄牛〟は「黄色い牛」ではなく、赤みがかった毛を持つ牛のことで、日本語では、「赤牛」となる。中国でもっともポピュラーな牛で、幼いころから、人民公社の生産隊の牛といえば、この〝黄牛〟しかいなかった。黒牛や、白と黒の斑のある乳牛などは、絵本などで見たことはあるが、実物を見たことはなかった。〝黄牛〟は犂を引いて土地を耕したり牛車を引いて肥料や農作物を運んだり、石臼で粉を挽いたりして、黙々として働き、農家には欠かせない存在であった。

ところが、その〝黄牛〟は、群れると四方八方へ走り回る習性があることから、「ダフ屋」「転売ヤー」の意味でも使われる。最初は方言だったが、今ではネット上で広く使われるようになった。人気遊園地の入場券、新型スマホの発売会、ひいては有名な医者の診察券など、金の荒稼ぎができるあらゆるところに、〝黄牛〟が出没して、社会問題になっている。

一方、〝老黄牛〟は「老」という修飾語が付くことから、年を取った〝黄牛〟を指すが、これは名誉や利益のためではなく、ただ、ある信念や目標のために、黙々とコツコツと一生懸命に働く人を形容する言葉である。家族のために働くじいちゃん、ばあちゃん、父ちゃん、かあちゃん、それから、会社などで事業のために長年働く人などが、これにあたる。

苦労をせずして一攫千金をもくろむ〝黄牛〟もあろうが、辛苦を厭わず、地道に仕事をやり遂げていく〝老黄牛〟もいる。〝老黄牛〟として働き続けていきたい。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)