伝統と道教と仏教の三位一体の行事

2020年8月1日号 /

お中元の話

中国では、今でも公暦(太陽暦)のほか、農暦(太陰暦)が大事にされている。特に農村では、家に勤め人がいれば曜日のことも気にするが、基本的には農暦で農業を営んでいる。幼い時、7月になると家中がそわそわとなり始めた。先祖を祭る準備のためである。

今の中国ではお墓参りはほとんど清明節に行うが、筆者の田舎では清明節もさることながら、7月15日にも行う。嫁いだ娘たちも家族揃って実家に戻り、主の指揮のもとに、まず朝食の際、先祖の位牌の前に、花や果物、食べ物などを供え、お線香を上げ、叩頭(膝を曲げて)の礼をする。

朝食後、歓談してから、揃ってお墓に行き、墓前で紙銭などを焼く。日本の紙銭は棺の中に入れるようだが、中国では昔、銅貨の形をした紙銭をお葬式の棺が通る沿道に撒く風習があった。今は札や金元宝、銀元宝(昔の金貨、銀貨)をかたどったものを焼く。

あの世にいる先祖の皆様も楽に暮らすようにと、近年は札の額も非常に大きくなり、あの世でもインフレがあるように思わせるものさえある。日本に留学して、7月にまずお中元、8月にはお盆の話となる(7月のお中元は首都圏で、関西の方では8月となることを後で知った)。

日ごろお世話になった人にお中元を贈り、8月になると帰省の準備を始める。駅前や公園などの空き地に櫓が組まれ、8月15日を中日として、数日盆踊りが繰り広げられる。花火も日本の夏の風物詩である。

祖霊祭、道教、仏教が合体

実際7月は昔から豊穣の季節で、7月半ばには収穫したばかりの農作物を、先祖と一緒に楽しむ豊穣祝いの儀式が行われていた。のちに、中国独自の宗教・道教では「中元」を、1月15日の上元(中国では「元宵節」)、10月15日の下元と並ぶ(本紙2018年2月号)行事の一つとするようになり、伝統行事として定着してきた。

さらに、仏教の盂蘭盆とも重なり、実際、伝統と道教と仏教の三位一体の行事である(日本も同様)。中国の長い休暇は、旧正月(春節)の時期だけである。中元節のお墓参りはほぼ田舎にいる家族を中心に行われている。

一方、日本では、「中元」には勤め人も少し長い休暇をもらい、帰省してお墓参りをする。海外旅行に出かけられる時期でもある。しかし、中国の大学などでは研究発表会開催の時期とされ、お陰でせっかくの休みもほとんど中国で開催されるシンポジウムなどに費やされているこの頃である。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)