Meは何しに中国へ
さて,この日本男児は生まれてこのかた,留学はおろか海外へ出たこともないような人
間でございます。そのような人間がなぜ中国へ行こうと思ったかというのをつとめて簡潔にお話ししようと思います。
4歳の誕生日の前日に書道教室にぶちこまれて以来,この男は書道の人間だったのであ
ります。なにせ物心も付いたかつかないかという時期でありますから,書家の家系でもないのに日常の中に書がありました。それこそ私の青春は,墨と筆に大部分をささげて,あとは生徒会くらいのものであります。
篆刻とは仙台で出会いました。書では展覧会に師匠の専門分野で出品するのがふつうで
ありますところ,仙台で紹介してもらった先生は篆刻と刻字の方でありました。篆刻は他の分野と比べて額がかなり小さいので,そのぶん表装代が安く済みます。当時のわたしは漢字書を続けてやりたがっていましたが,この苦学生が今でも書を続けられているのは,明らかに篆刻のおかげです。
篆刻は古代文字を題材にしますから,書の中でも特にアカデミックな分野であります。
それが性に合っていたのか,ひとたび始めるとどんどんのめりこんでいきました。ところで中国には,北京故宮博物院所蔵の石鼓をはじめ,研究対象となる古典がたくさんあります。これらを学習のモチベーションとして中国語を学んだら楽しいのではないかと思い,法学部生ではありますが,中国政府奨学金に応募したのであります。
留学準備をしよう
合格通知書(录取通知书)を受け取ったらまずすべきことは,ビザの準備をすることと,今後することを筋道立てて整理することです。特に日本の大学に通っていますと,7月はテスト期間で自動的にてんてこ舞いになります。住んでいる場所によっても異なるかもしれませんが(それこそ中国留学中に公費留学生に応募される方もいらっしゃるので),わたしが主にしたことのなかで,苦労した点を思いついた順にまとめてみようと思います。
● 通信手段の確保
まず日本で契約している携帯会社に行って話を聞くとほぼほぼ休眠手続きの話をされま
した。これでは話にならないので,さきの留学生の方に話を聞くと,北京大学の場合は入寮してから携帯電話の契約に関する案内がまわってくるようです。こと日本の東北大学ではGmailを常用することになっていますから,Googleを使うための用意が必要です。有料のVPN1つと無料のVPNをいくつか入れていった方が多いようです。おそらく他のどなたかが解説なさっていると思いますが,キャッシュレス決済システムも日本で入れていかなければなりません。
余談ですが,北京大学やCSCからのメールはGmailアドレスにも届きました。
● 北京や中国に関する情報収集
情勢が情勢ですから,石橋は叩きすぎたほうがちょうどよいです。多少用途は異なりま
すが,他への旅行でもお世話になった「地球の歩き方」の北京版を買って持っていくことにしました。渡航とその準備についてはそれなりに現実的なことが書いてありますので,一読しておくとよいと思います。
● 航空券・ビザ
ビザは合格通知書(录取通知书)を受け取るころには時間的に申請を始められるはずです。早めに申請した方がよいです。また,ビザを受け取る予定のパスポートセンターに一度パスポートの原本を提出しなければなりません。フライトの直前になってもビザが審査中のまま止まっていたので,あやしがりてビザセンターに電話してみるに発覚した(衝撃の?)事実であります。申請時にパスポートの画像を提出させられますが,電話口で「そ,そういうことじゃないんだよ」みたいな反応をされました。
そこで北京大学に連絡して,到着期限を1週間ほどオーバーするので同意がほしいと連
絡したら,そこそこたらい回しにはされましたが,無事担当部署の方から「ゆっくり来いへ~」という趣旨の返答をいただくことができました。
ちなみに申請フォームには航空便の番号を入力する欄がありますが,空欄でも申請でき
ます。ですから航空券は急いでとる必要はありません。
● 荷物整理
格安航空会社で予約すると預け荷物の上限が非常に軽かっ(20kg,23kg,…)たり,オプションで料金を取られたりするので,予約の際によく確認するのが吉です。特に本を持って行こうとするときは注意が必要です(わたしも中日辞典のほかに篆書大字典などを入れたので,スーツケースを米用のはかりに載せながら荷造りしました)。
電子辞書も検討に値しますが,充電式電池を備えているときは注意が必要です。モバイ
ルバッテリーや液体など,中国の航空輸送に関するさまざまな規制についても,旅行雑誌を1冊持っているとすぐ確認できて便利です。

東京中国ビザ申請サービスセンター(中国签证申请服务中心) りんかい線の東京ビッグサイト駅のすぐそば。いわゆる湾岸エリアにあります。高速バ スターミナルや新幹線で東京に行くのであれば,東京駅からバスで行って3,4分歩くのがいちばん簡便でいいかもしれません。辰野金吾でおなじみの丸の内口のほうです。東京中央郵便局の真向かいのバス停からビッグサイト行きに乗って武蔵野大学で降ります。

ビザセンターと聞くと入国審査のような堅苦しい想像をするかもしれませんが,意外と居ごこちのいい空間です。雰囲気は銀行に近く,なんなら営業時間も銀行みたいです(9時
~15時)。窓口の方はたいへん親切で,案内もわかりやすいです。そんなにひどくは混みませんので,首都圏にお住まいの方なら一度窓口で聞く方がはるかに早く解決することも
あるかもしれません。

篆刻作品の近作
篆刻は,石に古代文字を彫って印をつくり,その印影を鑑賞する芸術です。文中に「刻字」という言葉も登場しますが,こちらは木材に文字を彫って着色し,それ自体を鑑賞します。制作にはノミと木槌が必要になります。
字面だと似て聞こえますが,集合住宅で制作するのであれば篆刻が圧倒的に優位ではないかと思います。写真は近作の「鉄橛子」(第73回河北書道展,7.2cm×7.2cm)です。決して揺らがない強い意志を指す言葉です。




