賛成できなくても理解を そこには必ず理由がある

2021年7月1日号 /

 

日本二胡振興会会長

二胡演奏家、画家

武楽群さん

中国遼寧省出身。1988年来日。画家として数多くの絵画を国内外の美術展に出品、受賞。また、二胡教育家、演奏家として日本全国の愛好家累計1000人以上に二胡を指導。さらに、音楽プロデューサー・コーディネーターとして1997年の「ASKA ASIAN TOUR2」を手がける等、芸術分野の多方面で活躍。日本二胡振興会会長・中国音楽学院客員教授・中国民族管弦楽学会胡琴専業委員会理事・中国音楽家協会二胡学会理事

 

日本から一時帰国した友人に酒の席で「日本に留学に行きませんか」と聞かれ、軽い気持ちで返した「行きます」の一言で、1988年の来日が決まった。もちろん外の世界を知りたい、美術スキルを高めたいという気持ちもあった。来日後は日本語学校へ1年通い、その後武蔵野美術大学へ進学。当時、バブル崩壊直前の日本の熱気や繁栄ぶりは強く印象に残っている。

日本と中国の違い

あれから30年余り、いつも心にあるのは、容姿も文化も似ている日本人と中国人の間に存在する違い。例えばコンサートの企画、日本では事前に全てのスケジュールが綿密に計画され、分刻みで動いていく。一方の中国はというと、とにかくまずやってみる。問題が生じれば、その場で臨機応変に解決する。よく冗談で例えるのは、金属の額縁とゴムの額縁。日本では、まず枠が決められて、その中で物事が動いていく。中国にも枠はあるが、それはゴムでできており、変幻自在なもの。そんな中でいつも心がけているのは、理解すること。生まれ育った環境によって、それぞれ必ず理由があるのだから、相手に賛成できなくても、それを理解するようにしてきた。

奇跡の一本松

2011年後半、30年以上の付き合いがあるヴァイオリン製作者の中澤宗幸さんからヴァイオリンに奇跡の一本松の絵を描いてほしいと依頼が来る。それは東日本大震災で発生した津波の流木から作られたもので、普通のキャンバスとは全く違う。色が付着しにくく、油絵具は分厚すぎると亀裂が入ってしまうため、描いては手のひらでぬぐう作業を指紋が無くなるほど続けた。そうして最終的には、ヴァイオリン5本 ビオラ2本、チェロ2本、計9本、被災地への思いを胸に、全て無償で提供した。

「TSUNAMIヴァイオリン」は千の音色でつなぐ絆プロジェクトによって、これまで故イヴリー・ギトリス、世界的に有名なチェリストのヨーヨー・マ、葉加瀬太郎、川井郁子、宮本笑里等を始め多くの人々によって奏でられ、今なお世界を旅し続けている。

広げた二胡の輪

美術スキルを高めたい思いもあって来日したが、気が付けば二胡に携わる時間の方が長くなり、絵を描く時間は多く取れなかった。それでも後悔はない。来日時には、その存在さえほとんど知られていなかった二胡、手作りの教材からスタートし、今では全国十数万人が習うまでになった。「自分がやるべきことかどうか、自分にできることかどうか」、いつもそれを行動指針にしてきた。

今後の活動

昨年末、日本華人美術協会を設立し副会長、秘書長に就任した。

今年は中国文化センターでの日本華人美術家の美術展(8月)、「不問東西」美術展(9月)を計画中、音楽コンサートもコロナ収束後に再開予定だ。マスクを外し彼の芸術作品を再び目で耳で存分に味わえる日が待ち遠しい。

(本紙 大脇小百合)