良いアニメ作品は良い人材から生まれる

2020年10月1日号 /

彩色鉛筆動漫設計有限責任公司CEO
Colored Pencil Animation Japan株式会社代表取締役
鄧 志巍(トウ シ ギ)さん

1987年中国重慶生まれ。四川美術学院に入学後、アニメ制作に参加。2010年、四川美術学院卒業、水彩画学部の学士学位取得、「視美動画公司」就職。2014年重慶に「彩色鉛筆動漫設計有限責任公司」を設立、CEOに就任。2018年東京支社「Colored Pencil Animation Japan株式会社」設立。月に10日~2週間は東京に滞在していたが、現在は新型コロナの影響で約7カ月、日本に入国できていない(2020年9月現在)

 

経営者、クリエイター、アニメファンの立場から日中アニメの発展を支える 

 

東京・町田の住宅街。落ち着いた佇まいで、アニメーション業界の担い手はスタジオを構えていた。多くのアニメーションスタジオが密集する新宿、中野、練馬、武蔵野・三鷹エリアから離れた町田を日本での拠点にした理由。それは「つくり手がアニメ制作に集中できる環境を整えることが会社の役目」と感じたからだった。

26歳で「彩色鉛筆」設立

『ちびまる子ちゃん』『ドラえもん』『美少女戦士セーラームーン』… 子ども時代は数々の日本アニメを観て育った。当時は「物語や絵はともかく、アニメを観たい一心」だったという。

やがて中学・高校生になり、当時観ていた『るろうに剣心』に衝撃を受ける。以来、日本の二次元カルチャーに強い興味を持ち、日本を訪れる機会も増えていった。

四川美術大学卒業後は重慶にあるアニメ制作会社に就職。2014年に独立し、「彩色鉛筆動漫」を設立後は、中国で大ヒットした『マスターオブスキル・劇場版』にエグゼクティブ・ディレクターとして参加、日本のアニメ会社からも『ペンギン・ハイウェイ』『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』などの原画制作を請け負い、原画・作画監督・演出・プロデューサーの役割を経験した。

テンセント系列企業の支援も受け、中国アニメ市場の拡大とともに国内トップクラスに成長してきた同社。

急成長する中国アニメ業界だが、日本のクオリティに届いていない部分もあるため、日本のリソースからの学び、また日本アニメ会社との業務提携のための窓口として、18年に町田に東京支社を設立した。視察で何度も訪日する中、「日本のアニメーターの待遇面を危惧」するようになった。

価値観の違いは想定内

アニメ業界ではプロデュース側に注目が集まりがちだが、その下には多くのアニメーターがいる。その作画の工程を特に大切に思い、アニメーターの待遇を良くしていくことが価値のある日本アニメがパイオニアとして、常にアニメの先進国であり続けられると考えた。

残業の管理や住宅手当など、業界では稀なコンプライアンスの取り組みを強化している。社員が能力を発揮することで会社は発展して業績が上がり、結果、社員は多くの報酬を受けられる。つまり両者は「ウィンウィンの関係」であると。

会議の回数や勤怠、物事の把握の仕方…、想定内の日中間のカルチャーギャップは当然ある。しかし、両者のもつ家族愛や友情などの「心」に大きな差はなく、愛される作品の傾向にも違いはないと感じている。

経営者であり、クリエイターであり、アニメファン。夢は、投資から制作までオリジナルの、世界中から愛されるエンターテインメント作品を手がけること。原画に命を吹き込む色鉛筆から名付けた社名「彩色鉛筆」。夢に向けて、鮮やかな未来を描き出していく。

(本紙 小金澤真理)