念願のリビング映画館コロナ禍きっかけに

2021年2月1日号 /

 

リアリーライクフィルムズ合同会社
代表社員
沖田敦さん

1960年生まれ。にっかつ(現日活)洋画宣伝部、アルシネテランを経て、1997年に配給会社ワイズポリシーを立ち上げ、『橋の上の娘』(LANCOM presents)、『プロークバック・マウンテン』『ラスト、コーション/色・戒』等多数配給。2016年にリアリーライクフィルムズを新たに創立。2020年コロナ禍の最中に、映画館との共存を謳った【リビングルームシアター】 を開設した。

 

新しい中国映画のムーブメントに注目

2020年4月、劇場公開映画を自宅で鑑賞できる『リビングルームシアター』を開設した。きっかけとなったのは、18年の「カンヌ国際映画祭」で買い付けた中国の新鋭監督ビー・ガンの『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』。新宿ピカデリーなどでの3D上映も決まる中、20年3月の公開直後にコロナ禍となった。3Dメガネ貸し出し方式の映画館は全滅となり、来場者は予想の10分の1に。同監督のデビュー作『凱里ブルース』を公開した6月は、劇場の間引き営業が可能となったものの、その時点での来場者数は予想のわずか3割ほど…。

そんな状況下、老舗映画館から情報をもらったのが、劇場公開作品を自宅でオンライン視聴できる「仮想映画館」への参加の誘いだった。

「僕自身、約5年前からオンラインシアター《LIVING ROOM THEATER》の構想があったけれど、プラットフォームづくりの面で先送りになっていた。でも、コロナ禍でのこの『仮想映画館』のアイデアが、5年前の僕の構想を実現する具体案として大きなヒントとなった」

今、中国映画に惹かれる理由

映画を買い付けて映画館など興行先へ販売する「映画配給」業界に身を置いて30年余り。もともとはフランス映画をメインに扱ってきたが、前身の配給会社を経営していた時に、ジジ・リヨン主演の『再見 また会う日まで』(03年)やアン・リー監督の『ラスト、コーション/色・戒』(07年)など中国や香港映画の配給に関わった。

「今、中国映画に惹かれている」理由は、「フランス映画が80年代や90年代初頭に表出してきた刺激的な作家のムーブメントが下火となり、その勢いは今やアジア、とりわけ中国にある。ビー・ガン監督の作品も、過去の作品からの引用を新しい次元へと引き揚げ、全く別次元の世界観へと転化している。『凱里ブルース』もオーソドックスな中国映画の表層を纏いながら、そこで描かれている時世や空間、構造は前例のないものだった。そこが面白かった」

日中映画界の交流活発化

年間の外国映画上映数に決まりがあるという中国。また、近年の中国映画では、中国人より報酬が格段と安い日本人の監督や俳優を起用して、ギャラを抑える動きもあるという。
「日本の有名監督・俳優でも、国際派の多い中国の監督や俳優に比べるとギャラは破格と聞きます」

今後目指すは、ビー・ガン監督に続く中国の新進監督の作品を配給すること。
「交渉で負けて買い付けには至りませんでしたが、11月の『東京フィルメックス』で上映された『不止不休』や、台湾映画の『怪胎』には注目していました。これらの作品は奇遇にもウイルスが題材で、どちらもコロナ発生前に製作され、時代を先取りしていた。この偶然性にも、中国映画の時代の到来を感じます」。

最近、次なる中国新人監督の作品を買い付けたばかり。女性監督のデビュー作で、公開は22年を予定している。

(本紙 小金澤真理)