介護の美しさを伝えたくて四か国語で詩画集を出版

2020年9月1日号 /

出版プロデューサー 孟 梅(もう・めい)さん

中国・牡丹江市出身。1990年に来日、東京都在住。一部上場企業で11年間にわたり電子部品開発の主任と営業を務めた後、C・Jアカデミー語学学校設立。神奈川県国際交流職員の経験もある。現在は出版・翻訳やイベントのプロデューサーを務める。散文や詩にも定評あり。東京都日中会員、華文文學筆会會員。

 

上場企業での開発業務から語学学校の経営に転身、ビジネスの世界で縦横無尽の活躍をしていた孟梅さん。実母の認知症と介護に直面し、絶望からやがて大きな夢を見出した。使命感に燃えて取り組んだものとは。

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介護経験から生まれた詩画集『母のあし音』。飾らない言葉と柔らかな画が温かい気持ちにさせてくれる。冨山房インターナショナル刊

2018年5月。中国・黒龍江省の実家で、10年ぶりに見る母親の変貌ぶりに戸惑った。最初は、何を聞いても上の空程度と思ったが、一緒に過ごすうちに、違和感は大きくなるばかり。自分が今いる場所がわからない、さっき食べたものが思い出せない、突然怯えてぶるぶる震え出す…母の身に一体何が起きたというのか。

中国で「認知症」は、それこそ長く認知されてこなかった。その症状も、病気であることも。母の異変をそれと察したのは、日本で暮らし、働いてきたおかげだった。かつて、職場の上司が直面していた状況に酷似していた。認知症を患う母親の介護のためにしばしば欠勤し、やがて休職、退職の道をたどった。離婚にも追い込まれたと聞いた。いつも自信にあふれた有能な上司だったが、最後に目にしたのは、頬がこけ、げっそり痩せた別人だった。

認知症は本人だけでなく、介護に当たる者の心身までをも破壊してしまう。恐ろしい病気だとその時思った。まさか自分が当事者になろうとは。

一昨年、母親の顔を見に立ち寄ったのは、中国出張とちょうどタイミングが合ったから。日本製品を中国の展示会で紹介する仕事を任されていた。しかし、母の認知症を疑う以上、放っておけなくなり、そのまま出張先の西安に同道させた。2カ月間寝食を共にして、残念ながら疑いは確信に変わった。

―(続きは本誌で)