香港・マカオの「ちょっと穴場的」ガイド ⑥

香港を歩いていると、大小さまざまな寺院が数多く存在することに気付かされる。そして、そこには熱心に祈りを捧げる人々の姿が。お正月や受験シーズンなど、限られた機会にしか「祈願」することがない日本とは違い、香港では日常生活の中に信仰が深く根付いている印象を受ける。

黄金に輝くきらびやかな装飾や、賑やかな雰囲気も、香港ならではの寺院文化といえるだろう。個性豊かなパワースポットを紹介したい。

ブルース・リーの聖地へ

MTR屯馬線の終点・屯門駅で輕鐵(ライトレール)に乗り換え、交通量の多い青雲路にある青山村駅で下車。ここから興才路に分け入り、きつい坂道をひたすら登っていく。

青山寺徑の案内が現れると、坂はいっそう険しくなり、もはや坂道というより山道といった雰囲気だ。流汗淋漓、青息吐息で日頃の運動不足を痛感するなか、筆者の横を軽い足取りで追い抜いていく高齢者のグループがいた。山歩きには慣れているのだろうが、彼らのペースについていけない自分が情けない。

鬱蒼とした雰囲気のなかにある青山寺

どうにか目指す青山寺の山門に到着すると、眼前に屯門の街の壮大なパノラマを望むことができる。山の空気は清々しく、下界の暑さを忘れさせてくれ、絶景を眺め、少しばかり疲れが癒やされた。

青山寺はかつて青山禅院と呼ばれていた香港最古の寺院で、香港における仏教発祥の地といわれている。ただ、ブルース・リー(李小龍)ファンの間では、そうした歴史的背景よりも、大ヒット映画「燃えよドラゴン」の主要ロケ地のひとつとして知られており、「聖地巡礼」に訪れる人が少なくない。かく言う筆者もそのひとり。あの有名なセリフ「考えるな、感じろ」は、ここでリーが弟子を指南する際に発せられたのである。

月下老人には会えたのだが……

ファンのためにパネルが設置されているはずなのだが、なかなか見つからない。どこにあるのだろうと、閑散とした境内をウロウロしていると、縁結びの神様・月下老人の像の近くに潜んでいた大型の野犬に激しく吠えられ、生きた心地がしなくなった。刺激さえしなければ噛まないことはわかっているが、犬が大の苦手なのだ。恐怖のあまり、今度は冷たい汗が背筋を伝った。

訪れる人はまばらな茶果嶺村の天后廟

MTR觀塘線の油塘駅で下車し、茶果嶺村道と記された標識に従って進んで行くと、やがて右手に石造りの小さな建物が現れる。1800年代に清朝政府によって建てられた天后廟だ。

木造の廟内は神秘的な世界

珍しい石造りの廟は、元々、茶果嶺村が採石場として栄えた場所だったため。海の安全を守る女神が祀られた仄暗い廟内へ入ると、蠟燭の灯が温かみのある木造装飾を優しく照らしており、俗世と切り離されたような気分になる。

人々の信仰心の深さが伝わってくる

天后廟を出て、もう少し歩いたところに、朽ち果てた村の風景が残っている。まだ人は住んでいるのだが、まるでゴーストタウンのようだ。このあたりは再開発が進められており、近い将来、味気ない公営団地に生まれ変わる計画という。以前に取り上げたレトロな「冰室」も、このエリアにある(すでに閉店の可能性も)。400年以上の歴史を誇る茶果嶺村の最後の姿を目に焼き付けておきたい。

幸せの風車が回る車公廟

このあと紹介する2つの寺院は、いつも参拝者で賑わう香港でも屈指の名刹で、MTRの駅名にもなっている。「ちょっと穴場的」という本連載のコンセプトとは異なるものの、人々の熱気に触れるのは貴重な体験なので立ち寄ってみよう。

赤い壁が目を引く沙田車公廟

MTR屯馬線の車公廟駅から歩いて数分。鮮やかな赤い壁に囲まれた沙田車公廟に、次々と人が吸い込まれていくのがみえた。その名のとおり、南宋時代(1127~1279年)の名将・車公を祀っている。

車公廟には風水好きが集まる

勇猛かつ学問にも長じた車公は、人々の尊崇を集めていた。のちに沙田村で疫病が蔓延した際には、夢のお告げ通りに車公の聖霊を呼び出し拝んだところ村に平和が戻り、感謝の意からこの廟が建てられたとされる。

巨大な車公像

本殿には高さ11mの立派な車公像がそびえ、線香を手に祈りを捧げる人が引きも切らない。ここでのお参りには一連の作法があり、まずは線香をお供えしたのち、銅製の風車を時計回りに3回だけ回し、太鼓を叩く。風車は「運轉乾坤」と呼ばれるもので回すと幸運を招くといわれている。ただし、欲張ってたくさん回すと運が逃げてしまうそうなのでご注意を。縁起物のミニ風車をお土産に求めるのもいいだろう。

お参りの際はこの太鼓を叩く
豚の頭を供えているのが香港らしい
お祈りする人の前にあるのが風車だ

MTR觀塘線の黄大仙駅で下車して地上に出ると、すぐ目の前にあるのが黄大仙だ。創建は1915年で、1921年に現在地に移転した。

ビルの谷間にある黄大仙

名前の由来は、東晋時代(317~420年)の黄初平という仙人に因む。現在の浙江省金華市で羊飼いをしていた黄初平は、あるとき道士に秘めたる才を見出され、修行を積んだのち仙人となった。不老不死を体得したとされる、この黄大仙が本尊として祀られている。

参拝者の多さとパワーに圧倒される

道教、仏教、儒教が融合した異色の寺院で、崇める対象が多いせいか、「どんな願いでも叶う」とのこと。そんな夢のようなパワースポットであるから、参拝者が境内を隙間なく埋めているのも納得である。

今回、おすすめした4つの寺院は、たまたま屯馬線と觀塘線の沿線なので、お得なMTRのフリー切符を求めて開運散策を楽しんでみてはいかがだろうか。

(内海達志)