
懼留孫(くりゅうそん)は闡教十二大仙の一人で、夾竜山飛雲洞(きょうりゅうざん ひうんどう)の洞主である。その名前からも分かるように、後に仏道に入り拘留孫仏(くるそんぶつ)になったとされる。または、こうした紹介よりも、以前に紹介した土行孫(どこうそん)の師と言った方がイメージを持ちやすいかもしれない。
物語での初登場は、他の十二大仙と同じく十天君との戦いのために周軍営に参上した時である。戦いでは地烈陣(ちれつじん)を操る趙天君(ちょうてんくん)を宝器・梱仙縄(こんせんじょう)で捕え、周軍に連れ帰る。その後、趙天君は周軍の門前に吊るされた。十天君は戦いにおいて多くが封神される中で、捕縛という手段をとった懼留孫の戦い方はかなり特徴的であろう。
また、物語の後半、火霊聖母(かれいせいぼ)を討ち取った姜子牙が自軍に戻る途中、申公豹(しんこうひょう)に出くわした。申公豹は以前、姜子牙を騙そうとして、逆に返り討ちにあったことを逆恨みしていた。追い詰められた姜子牙は七死三災の命運によって申公豹に討たれ深手を負う。そこに懼留孫が現れ、姜子牙を助ける。申公豹は懼留孫を目にするや敵わないと悟り、慌てて逃げようとした。しかし懼留孫の梱仙縄によって捉えられ、麒麟崖へ連れていかれてしまう。申公豹の行動からも、懼留孫の実力が窺い知れる。
また万仙陣では亀霊聖母と戦う。亀霊聖母は日月珠という宝器を使う。だが、宝器の正体が分からないため、懼留孫はあえて立ち向かわず、西方に逃げ出す。これを追いかける亀霊聖母であるが、その行く手を接引道人が遮る。こうした部分に懼留孫と仏道との縁が深い事が描かれている。
弟子の土行孫が申公豹に騙され、姜子牙に敵対した際、地面を鉄のように固くする術を使い、土行孫の地行術を封じる。さらに土行孫が従っていた鄧九公には嬋玉(せんぎょく)という娘がいるが、これが土行孫と夫婦になる縁があることを見抜き、土行孫ともども周軍に引き入れる策を提案する。このように懼留孫は、武力だけでなく知力、さらには機微に富んだ場面が描かれ、十二大仙の中でも活躍の場面が多いと言えるだろう。
文 ◎ 二ノ宮 聡
1982年生まれ。中国文学研究者。中国の民間信仰研究。関西大学大学院文学研究科中国文学専修博士課程後期課程修了。博士(文学)。北陸大学講師。
絵 ◎ 洪 昭侯
1967年、中国北京生まれ。東京学芸大学教育学部絵画課程卒業。(株)中文産業のデザイナーを経て、2014年、東方文化国際合同会社設立。




