シドニー滞在記

2026年8月1日号 /

7月号の「窓」にも書いたとおり、私は現在、豪州のシドニーに滞在している。大学卒業後中国に留学、大学院で中国の沙漠緑化を研究し、社会人になってからも日中青年交流事業のコーディネーターや大学での中国語指導など、中国とさまざまな角度から関わってきた。これまで中国と深く関わってきた私ならではの視点で、豪州における中国文化についてご紹介したい。

渡豪前、豪州はアジア系移民が多くアジア人にとっても暮らしやすいということは聞いていた。とはいえ、基本的にはイギリス文化の流れを汲む国である。日本にもあるような「特定の街に特定の国の人が多く住み、彼ら向けのレストランや商店が集まるエリア」がある程度だろうと想像していた。ところが実際に来てみると、そんなレベルではなく、とりわけシドニーは本当にアジア文化が根を張っているような街だったのである。西洋建築の町並みの中に突如現れる中国風の建物、西洋風デザインの住宅街の中に突如現れる中国語などのアジア言語。もちろん日本風の店や日本語もたくさん目にするが、特に中国語の多さは際立っている。渡豪してからもしばらくはその風景に慣れず、不思議な感覚を抱いていた。

西洋建築の町並みに現れるチャイナタウンの牌楼(門)には「澳中友善(豪中友好)」の文字が

食に関しても、オーストラリア人(オージー)たちは本当に外国料理によく通じている。世界各国のレストランがあり、その多くは現地出身者が経営し、客もふるさとの味を求める同郷の人々だ。それゆえ、本場さながらの味を提供する店が非常に多い。

日本のテレビ番組などで、来日中の外国人にインタビューをするものがあるが、日本の食べ物の名前などに非常に詳しいオージーをしばしば見かける。出演者らが驚き、「日本に詳しくてすごい」なんて言っているが、身も蓋もない言い方をすれば、それは彼らにとって当たり前のことなのである。豪州では日本食レストランが至るところにあり、彼らは日常的にさまざまなメニュー名に親しんでいる。サンリオなどのキャラクターグッズショップも人気で、街中でグッズを持っている人をよく見る。他の欧米諸国では、少々コアな日本ファンだけが詳しいのかもしれないが、豪州、ことシドニーにおいては、すでにアジア文化は日常の一部として存在している。

本格的な中華料理、いわゆる「ガチ中華」に関して言えば、シドニーは東京の池袋以上に充実しているかもしれない。四川料理や東北料理など様々な地域のレストランがあり、ミルクティーなどのドリンク店も充実していて、いずれも本場の味わいだ。また、日本にある中華スーパーの比ではないほど巨大なアジアンスーパーや市場があり、割高ではあるものの、輸入されたアジアの調味料・食材を入手することが可能である。私は留学時代から好きなガチ中華のメニューがたくさんあるのだが、日本では材料が手に入らず再現するのが難しかったものも、シドニーでは材料が手に入り再現可能だ。せっかくなので、ガチ中華ばかり作っている。

さらに驚いたのは、中国ではおなじみの生鮮品が売っていることだ。チンゲンサイなどはもちろん、芥兰(カイラン)・油麦菜(ヨウマイツァイ)・长豆角(ナガマメ)といった、日本ではなかなか入手しにくい中国野菜や、生のナツメ・ライチ・リュウガンなどの果物も手に入る。これらの野菜は、かつて中国系移民が持ち込んだものが受け継がれて発展し、現在では豪州国内での生産体制が確立されている。ナツメも20年ほど前に豪州の土地に適した作物として導入され、注目を集めているそうだ。

日本でもなかなかお目にかかれない中国野菜が豊富に売られている
(シドニー中心部の中国系アジアンスーパー)

もちろん日本の食材も手に入るが、生鮮食品に関してはなかなか難しい。例えば日本特有の、皮の薄いシャキシャキのピーマン・里芋・大葉などは手に入らず、その味が恋しい。豪州のピーマンは皮が厚く水っぽく、緑色のパプリカのようなもので、日本の小ぶりのものと比べると2~3倍くらい大きい。和食を作ってみても、調味料が同じでも食材が違うと味わいが変わってしまい、いまひとつになってしまう。そう考えると、中国系移民たちの中国野菜栽培への熱意と、今日に至るまでの技術伝承や市場の構築力には、あらためて目を見張るものがある。

日本で大流行している麻辣燙マーラータンはシドニーでも大人気で、「楊国福」や「張亮」といった中国の大手チェーン店が進出している。時間帯によっては行列ができており、客層は中国系だけではなく、それ以外と思われる人々もかなり多い。スープの味や選べる具材の種類も日本の店より豊富で、特に中国らしいホルモン類や、麺の種類も充実している。価格帯は日本の麻辣燙マーラータンより少し割高で、現地中国と比べると非常に高額ではあるが、中国人の友人たちはやはり故郷の味が恋しいのか、定期的に通っているそうだ。

(理事・全国青年委員会委員長 小田玲実)

建国200周年を記念し、シドニーと姉妹都市の広州市の協力で建設された中国庭園(宜園)