「端正」と「端整」の話にからんで
これまで「端」の意味について述べてみてきたが、皆様には、日本語の辞書における漢字語の「端」に関する記述はどうなっているのか、ご存じだろうか。
手元にある、現代日本語の辞書『広辞苑』、『大辞泉』、『岩波国語辞典』、どれも、使っている文言こそ少し異なるが、大体同じ意味の説明である。『岩波国語辞典』の説明を例に見てみよう。
この意味は、「端」の形容詞的、動詞的な使い方である。言うまでもなく、中国語から来たもので、中国語の"端〟には元々備わっていた。現代中国語では、さすがに〝端〟はその1文字だけでは意味をなさず、主にほかの言葉と一緒に熟語になったり、慣用的な組み合わせの中に存在したりする。やや突飛な使い方に"不端"という言葉があるが、これは普通、〝品行不端〟(品行が正しくない)のような四字熟語的な組み合わせの中に出てくる。
この意味で用いられている言葉の中に、「端的」という面白い組み合わせ方の語がある。この漢字表記の中国語の〝端的〟は、基本的には、「はたして」「いったい」「つまるところ」のような意味であるが、現代では、もはやそれほど使われなくなっている。一方、日本語の「端的」は、「端的な事実」や「端的に言うと」など、まだ大いに活躍している。さらに、この意味の最も「端的」によく分かる使い方としては「端座」という言葉であろう。
「端正」と「端整」の異同
この意味の「端」と組み合わさった熟語の中に、次のような、ちょっとややこしい使い方をする2語がある。「端正」と「端整」。日本語では、この2語の発音は同じく「たんせい」だから、辞書によっては、1つの小見出しにしているのがある。そのせいか、日中辞典などでは、この2語を1語として扱っているものがある。
日本語を学ぶ外国人は「たんせい」という発音だけ覚えれば、特にその使い方の違いに気を配らなくてもいいかもしれない。しかし、いざ文章を書くとなれば、その漢字の正しい使い方が分からないと、やはりよくないだろう。「端正」と「端整」は、その2番目の漢字の「正」、「整」の意味からでも推測できるように、それぞれ「正しいこと」、「整っていること」を中心として取り扱った言葉である。「端正」は、「姿や形などが正しくてきちんとしていること。またはそのさま」で、「端正な字」のような使い方があり、「端整」は「顔だちなどが美しく整っていること。またそのさま」で、「端整な目鼻立ち」のような使い方がある。(説明、用例、いずれも『岩波国語辞典』)
これに対して、中国語では、この2語〝端正〟と〝端整〟は、漢字の表記も相違し、発音も違う(〝正〟は四声、〝整〟は三声)ことから別々の語となっている。しかし、『現代漢語詞典』のような辞書では、〝端正〟しか取り上げられていない。それにしても、筆者には、〝品行端正〟(品行方正)、〝五官端正〟(目鼻立ちが端正――ここの使い方は日本語と同じように、「端整」を使っても良い)などのような使い方は別として、「身だしなみ」「身なり」を意味する〝衣着〟、〝衣冠〟などの語と組み合わさる場合、〝衣着端整〟のように、やはり〝端正〟よりも、〝端整〟の方を選びたいもので、実際、ネット上には用例がたくさんある。
なお、中国語の〝端正〟は、〝端正学习态度〟(学習に対する姿勢をきちんとさせる)のような、もう1つの、動詞的な使い方もあり、日本語の「ただす」に対応するものである。
(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)




