男と男性

2026年5月1日号 /

中日用法の異同

共に漢字を使う中日両国語の最も基本的な言葉に、「男」という語がある。今回はこの「男」という語の中日の使い方の異同について簡単に述べてみよう。

同じ漢字だが、中国語の〝男〟は性別を表し、現代中国語では、1つの単語ではない。つまり、〝男〟は一文字ではそのまま使うことはなく、必ず他の要素と組み合わせて使わなければならない。一方、日本語の「男」は音読みの「だん」は普通そのままでは使わないが、訓読みの「おとこ」はそのまま一つの単語として自由に使われる。したがって、日本語では「私は男です」と言えるが、中国語ではそのまま〝我是男〟ということはできず、〝我是男的〟のように〝的〟という助詞的なものをつけてはじめて言葉として成り立つ。

このように、1つの単語としては成り立たないが、その代わりに、修飾語としては〝男〟はおおいに活躍している。日本語の「男の」の意味としていくらでも言葉の構成ができる。例えば〝男教师〟、〝男司机〟など。これらは、日本語ではどう言うだろうか。「男の教師」、「男の運転手」は砕けた会話なら一応使うこともあるだろうが、普通は「男性教師」、「男性運転手」と言うだろう。中国語では、〝男性教师〟、〝男性司机〟という言葉も成り立つが、普通の使い方ではない。

「男」「男性」のニュアンス

日本語では男女別のトイレを言う際、話し言葉では「男のトイレ」と言っても意味は通じるが、普通は「男子トイレ」と言う。日本語の「男の」という意味にとらわれているのだろうか、観光地として有名な埼玉県の宝登山(ほどさん)の麓のトイレに、中国人観光客のことを思い計ってか中国語で〝男的厕所〟(〝厕所〟は「便所」、「トイレ」の意味)と書かれているのを見たことがある。中国人には、意味は通じるが、正しい中国語ではない。正しい中国語なら、〝男厕所〟でも通用するが、トイレの指示用語としては普通〝男厕〟である。

日本語では、「男」と「男性」は同じ意味だが、非常に面白い使い分けをすることがある。ニュース番組を見ていると、ある事件の報道だが、「男性は男に襲われた」というナレーションを耳にする。同じ男性の意味の言葉だが、「男性」は被害者、言い換えれば中性的な意味だが、「男」は加害者、被疑者、つまりマイナス的な言葉として使われている。

この「男」と「男性」の使い分けは、中国語ではできない。上記のように何よりもまず〝男〟は1つの単語ではない。〝男的〟と〝男性〟を区別して言っても、〝男的〟の話し言葉的ニュアンス以外は、その違いは特になく、ニュースとしては成り立たない。無理に表現するとすれば〝一名男士遭到一名男子袭击〟(〝男士〟は「男」の上品な言い方で、〝男子〟は中性的な言葉。「1名の男性は1名の男子に襲われた」)くらいだろうか。

AIの時代とはいえ、まだまだ言葉の微妙な相違を追及する余地があるものである。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)