人数や荷物の位置によって異なる

2021年8月1日号 /

「担ぐ」の意味をめぐる中国語表現

日本語を勉強する際、「担ぐ」の中国語訳が気になることがある。まず、この漢字を見る限り、中国人なら誰もが1人でやる動作と考える。中国語の場合、普通、天秤棒を使った動作以外は“担”は使わない。つまり、荷物は前後にあって、肩を使って運ぶ動作だけに、この漢字を使う。たとえば、“担担子”(“担子”を担ぐ。“担子”:天秤棒で担ぐ荷物)のような熟語は、2つの荷物が両端にあり、天秤棒のような道具を使うという暗黙の理解がある。日本でも人気の「担々麵」は、この天秤棒で担いで売られていたことからの命名である。

2人(以上)で、たとえば「駕籠を担ぐ」場合は、中国語では“抬”を用いる。北京の故宮博物院を訪れたことのある方は、中和殿に陳列される西太后が乗るという8人で担ぐ駕籠の“八抬大轿”などを目にしただろう。
「担ぐ」で使う身体の部分は、1人の場合も2人以上の場合も普通肩である。肩に乗せるのは、道具の天秤棒か駕籠の梶棒(轅)である。しかし、肩に乗せるのが道具ではなく物である場合、中国語では“扛”を使う。たとえば、テレビなどでよく目にする避難民や肉体労働者が「肩に大きな荷物を載せて運ぶ」場合、すべてこの漢字を用いる。

しかし、かばん(“书包”)などを「紐などで肩にかけて持つ」場合、日本語でも「担ぐ」より肩にかけると言うだろうが、中国語では、“背”という漢字を用い、“背书包”と言う。

 

「担ぐ」と「背負う」

“背书包”の場合、紐は肩にかけられるが、かばんは背中にあることから、中国語では“背”という動詞を用いることになったのだろう。動詞の“背”は名詞の“背”からの派生語である。したがって、背を使って物を運ぶ際、中国語では“背”という動詞を用いる。かばんは肩にさげる場合もあるが、ランドセルなら背中に載せるものなので、「担ぐ」よりも「背負う」という動詞を使う。この場合も、“背”という漢字を使う。

ただしランドセルに関しては、ネット上に「ランドセルを担ぐ」画像集があるのに対して、「ランドセルを背負う」ほうは単発的なものしかない。「ランドセルを担ぐ」は方言っぽいか。それとも、ひょっとしたら、「ランドセルを担ぐ」と「ランドセルを背負う」とでは動作的には同じだが、「背負う」は重苦しいと考えられるのに対して、「担ぐ」はそのニュアンスが薄いからだろうか。
コロナ禍の中、何かを担ぐことがあるだろうが、誰かに担がれると大変なのかもしれない。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)