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中国にしかない門
中国で寺院や古い邸宅を訪れた時、門の両側の柱の足元で丸い太鼓型の石造物があの重厚な門扉を支えている事に気付かれる人は少ないでしょう。私はこの石造物―門 ―に魅かれ、ここ十数年にわたって調査し、保存を訴えています。
門 は門扉の回転軸を支えている石製の建築部材です。いつ頃、どこで発生したのか?全国にはどんな型の門 があるのか?―など多くの謎があります。 形は獅子型・太鼓型・箱型の3種類です。表面には多くの模様が彫られ大変美しい芸術品です。これらの模様は、多くの文字が同じ音を持つ漢字の特性を利用し、子孫繁栄・昇進昇給・夫婦円満・魔除け・長寿などを表す吉祥模様で、中国民族の道徳観、倫理観、審美観を表す民俗工芸品でもあります。
12年前北京で…
私は定年直前に会社を退職し、翌年9月に妻と北京語言学院に留学しました。1年目は中国語会話、2年目に書道・水墨画を習い帰国後始まる年金生活を楽しむ計画でした。
ところが学生生活が始まって半年が過ぎたある日、孔子廟からの帰途、官書院胡同の古い四合院の入口で、黒光りする丸い石の美しさに目を奪われました。後になって、その石が明清時代の役人や大富豪の邸宅に設置された「門 」と呼ばれるもので、これを見ればその家の門閥がわかるとまで言われていることを知りました。
その頃、北京のあちこちの胡同でブルドーザーが古い四合院を壊し、門 も瓦礫としてトラックの荷台に載せられていました。つたない中国語で門?の保存を訴えましたが相手にされません。「門 は日本の“根付”と同じ運命をたどる。今保存しないと後世に悔いを残す!」と直感しました。妻に持ちかけると、「良い事よ。やったらどう」と賛同してくれました。「でも、私はごめんよ」(妻)
自転車で地図作り
門 の保存と言っても何から手をつけて良いかわかりません。京都大の田中淡先生から「写真を撮るなど現状を記録する事」との手紙をいただきました。これなら中国語が出来なくてもやれます。
そこで授業のない時は地図を片手にバスで市街地に出向き、門 を見つけたらその形と番号を地図上に記し、状態の良いものや珍しいものを写真に撮りました。
北京旧城は南北8キロメートル、東西8・5キロメートルです。この中の全胡同を自転車で調べるのに2年半かかりました。地図に記録した門 は6502組。その内1010組を撮影しました。持ち主のない門 や不要な門 は分けてもらい、大学に持ち帰りました。北京語言学院が中国最初の門?常設展示場「枕石園」を作り、無料公開中です。
こうして20世紀末の北京の門 地図を完成させ、引き続き陝西省西安・党家村、雲南省麗江・大理喜洲鎮の地図も完成させました。今後は同好の士を募って門 地図作りの旅行をし、インターネット上に門 博物館を作るのが楽しみです。門 の謎解きと保存運動推進のため、日中の建築学・民俗学関係者で門 学会を設立するのも夢のひとつです。
展覧会で保存訴え
資料作りと共に、日々各地で取り壊されている門?の保存も火急の課題です。今まで3回、門?の展覧会を開いて保存の必要性を訴えてきました。
98年末に北京の中国歴史博物館で写真と実物を展示する「門 展」を開催。解説書『北京門 』を出版しました。また、2007年9月に第9回世界華商大会神戸会場で拓本展を開催。同年末は西安博物院に拓本175幅を寄贈し、拓本展を開きました。
会場の留言帳に書かれた感想文のひとつ。「我々中国人が無視し、多くの専門家が功名の追求に追われ研究しなかった物を、中国の文化を愛するひとりの日本人が熱心に研究したのを見て、感慨深い。我々は反省しなければならない」
力を借りた人たち
ある時、北京の胡同で門 を写真に撮っていると、突然、子供と遊んでいた若い母親が何か叫びながら私に詰め寄って来ました。近所の人たちも一緒になって私を取り巻き、「フィルムを出せ!」と言ってるらしい。同行の知人に「貴女が写ったネガは捨て、それ以外のネガは私の物だ」と通訳してもらい騒ぎは収まりました。
再び、私が門 の大きさを測っていると、騒ぎを見ていた中年の婦人が私に近づき、「何をしているの?」と聞きます。「門 は保存すべきだと思う。誰もしないので調べて廻り、持ち主のない物は大学に収集している」と答えると、「それは良い事をしている。ところで中国人をどう思う?」と聞かれました。「中国人は親切です。どこの国にも良い人も悪い人もいますね」「そう。大部分の中国人は良い人よ! 気を悪くしないで門 の保存頑張ってね」
差し出された手は柔らかく、温かでした。
思えばこの十数年間数え切れない人たちから助けを得ました。
「北京胡同詳細地図」を黙って机の上に置いてくれていた寮の小姐。集めた門 を洗っている姿を見て、学内報に記載して大学の協力を引き出してくださった女性老師。「老爺爺! こっちにも有るよ!」と裏道へ案内してくれた子供たち…。
謝謝大家 謝謝!
(「日本と中国」2008年3月15日号掲載)
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